第2章 土曜日
それまで景色に関する放送をしていたスピーカーが、ポロロンッと軽快な音楽を奏でた。
「じゃあ、敬語で甘えますよ?」
俺の向かいに座っていた美咲が立ち上がる。ゴンドラが少し揺れた。
俺の隣に座り直すと、俺の膝にその手を乗せた。
スピーカーが観覧車の頂上を告げる。現実が渦巻く地上ははるか遠くにあった。
「ちゅー、してください。」
・・・降参。
負けた。負けました。はい、俺の負け。
どうやら敬語を使うのは俺の方だったようです。
「いくらでも。」
むしろさせてください。アホみたいにさせてください。
いつまでも美咲の記憶に残るぐらい、溢れんばかりのキスをさせてください。
きっと彼氏もしたことが無いだろうシチュエーションで、俺はお姫様にキスさせていただいた。