【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
土方(ひじかた)さんと言うらしいハイカラ老人はフッと笑い、
「困っているお嬢さんを放り出すのは、士道に背くことだからな」
おおお!!
いやさっきまでの言動を鑑(かんが)みて、もっと現実的に考えた方がいいな。
多分、(敵対してるっぽい)鶴見中尉が資金源を得るのが気にくわないだけなんだろうね。
裏切った尾形上等兵といい、敵が多いんすね、鶴見中尉様。
「小樽を出たところを悪いが、お嬢さんには一旦戻り、我々が戻るまで隠れ家で潜伏していてもらいたい。出来るかね?」
あんなに苦労して出てきたのに、小樽にUターンっすか。
でも鶴見中尉たちは小樽を出て夕張に行くんだから、その方がいいのか。
……ただ、これって月島さんと行き違いになる可能性が高い気がするのだが。
問題はもう一つ。このじいさんズを信用していいのか、という点だ。
何せ私は尾形さんにだまされた直後である。
早々、簡単に他人を信じることが出来ない。
助けると見せかけ、どこかに売り飛ばされたり、結局報奨金と引き換えに第七師団に引き渡される可能性も――。
「どうかな、お嬢さん」
「はい!! よろしくお願いします!!」
思考を放棄して、アッサリ承諾した私だった。
だって他に選択肢はない。
ここで『それではお元気で』と放ってかれても、結局第七師団に捕まるだけなのだ。
ただ小樽のどこかに預けられるのはいいとして、不安なことが一つある。
「ですが、その、私はとても甘やかされて育ったもので、満足にトメという方のお手伝いが出来るかどうか」
それだけが心配で、恐る恐る言ってみた。
すると永倉さんはうなずき、
「謙虚で良いことだ。だがトメさんは江戸生まれでそのあたりは『しっかり』しているよ。
花嫁修業でもすると思って安心して学びなさい」
……何だろう、今、とてつもなく不吉な予言を聞いたような。
「ありがとうございます。私は梢と申します」
「良い名だ。しばらく小樽で頑張るといい」
「はい。よろしくお願いします!」
こうして、私は土方さんの隠れ家にご厄介になることが決まった。
そして、時間がしばし経過する。
……。
……で、あの人ら、いったい何者なんだ?