【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
数時間後。私は馬に乗せられ町を出、近くの河原に来ていた。
「ほうほう。やんごとなき階級の出で、身分は明かせないが、お父上を頼り夕張に行きたいと」
永倉さんというご老人が仰る。
「……しかし私も世間知らずだったのです。夕張に連れていってあげるという男にだまされまして、金を全て奪われ放り出され、これからどうすれば良いのか」
焚き火にあたりながら、ヨヨヨと袖でまぶたをぬぐう。
「捜索願いを出したのは意地悪なお義母様。彼女の元に戻されたら、激しい折檻(せっかん)を受けて私は死んぢまうでしょう」
「それはお気の毒に。大変でしたな」
永倉さんはそう仰るが、どこまで信じてるのか怪しいもんだ。つか自分で話してて怪しいと思うし。
「鶴見中尉か。家出した良家の子女を保護し、実家から大金を得ると同時に、投資元を増やしたいと言うところだろう。
あの若造の考えそうなことだ」
と、刀を持った洋装のハイカラじいさん。
彼は鶴見中尉の情報をせしめるため、私を助けたらしい。
全く、どいつもこいつも。
というか、このハイカラじいさん、どこかで会ったような……気のせいかな?
「私を夕張に送っていただければ、父がそれなりに御礼を下さると思うのですが~」
目をそらしつつ、ウソを言う。
もう手段は選んでいられない。鶴見中尉の敵なら利用するまでだ。
「どうしますか?」
永倉さんがハイカラじいさんに聞く。だがハイカラじいさんは素っ気なく、
「我々は金に困っているわけではない」
マジか。ゲームオーバー点滅、再びである。だが永倉さんが、
「しかしここで放り出すわけにもいかんでしょう。
そうだ土方(ひじかた)さん。通いのトメさんが、最近腰痛で手伝いが欲しいと言ってました。
彼女のような若い女性が入れば丁度良いのでは?」
誰だよトメって。
「ふむ、そうだな……」
ハイカラじいさんは、私を見て、しばし考え込み――。
「お嬢さん。今すぐにではないが、時期を見て夕張に連れて行ってあげよう。
それまで、我々の家で働く気はあるか?」
「い、いいんですか!?」
思わぬ展開に、私の目が丸くなった。