【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第9章 うちの庭が明治の北海道につながっていた件
鯉登少尉はいぶかしげであった。
「消える? 尾形百之助を見つけたら、二人でどこかに消えるという意味か?」
「いやあその……」
第七師団にとって、尾形さんは裏切り者の脱走兵だ。
「梢……」
駆け落ち宣言かと、一気に不愉快な表情になる鯉登少尉。
眉間にしわ寄せ私を抱きしめ、
「あの男は止めておけ! あんな男と逃げては不幸になるだけ――」
「い、いえ、そういう意味では無く。その、私、もうすぐ遠い場所に行くんで……」
『?』と疑問符を浮かべ、完全にワケが分からないご様子の少尉。
「遠い場所? それはどこだ? 今のおまえに身寄りはないだろう?」
……うかつに口を滑らすんじゃなかった。説明が面倒くさい。困ったな。
「ええと……鶴見中尉様に口止めされていまして」
「そうか! 鶴見中尉殿の取り計らいか! 分かった。ならば私も無理に聞いたりはしない!」
前言撤回。この人ちょろいわー!!
「あははははー。遠い場所に行っても音之進様に受けたご恩……なんてあったっけ?――と、とにかく忘れません。
じゃ、そろそろ寝ましょうよ。音之進様、おやすみな――」
「梢」
「ん?」
何だ? ご恩を受けてないだなんて冗句っすよ冗句。
「わっ!!」
ドン!
気がつくと真上に星空――ではなく鯉登少尉。
両の手首つかまれ地面に縫い止められている。て、またかー!!
「ちょっと……離して下さい。明日にはまた出発なんだし……」
身じろぎするが、動けねえ。
「いやだ」
そう言って、私に唇を重ねる少尉殿。
「どこにも……行くな。おまえの事情はよく分からないが、ずっと北海道にいればいいだろう? 何が問題なのだ?」
それが問題なんですよ。いろいろと!
しかしさっき宣言した手前、鯉登少尉もそれ以上は追及してこなかった。
その代わりにさわさわと身体に触れ始める。
「いや待て。だから旅の途中でしょうが!! 触るなこの変態がっ!! だーれーかーあー!!」
鯉登少尉はゴホンと咳払いし、
「ま、まあまあ落ち着け。私に任せろ。おまえは力を抜いて横になっていればいい」
てめえ!! 私より経験が無いくせに知った風な口を!!
……虚しいから止めよう。
私は言われたとおりにだらんと力を抜いたのであった。