【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
実はちょっと怪しいと思っていた。
だって軍を脱走した目的はにごした割に、次の行き先はやけにハッキリ言うんだもの。
北に逃げる? 何年か潜伏して北海道を出るつもり?
ぜーんぶ、大嘘なのだ!
自分のことは伏せ、軍に『家出した令嬢が駆け落ち相手に連絡するため、郵便局を訪れる』とでも情報を流したか?
それによって自分の追っ手の目をそらすと同時に、私を確保させる。
私の身柄が第七師団に渡っても、偽の目的地を吐くだろうから二重に安心。
「傷つくなあ」
私は腕組みして言った。
こっちだって色々と隠し事をしてるし、北海道に来てからは迷惑のかけっぱなしだった。
100%優しくしてくれというのも無理がある。
……いや『夕張に親がいる』という話自体を疑われた可能性もあるかな?
ともあれ鶴見中尉に私を確保させれば、身体はヤバいかもしれない。だが、当面の安全は保証されると。
女だし、それなりに財力のあるバックがいるのだから、そこまでむごくは扱われないだろうと。
ですがねえ。この仮定にも問題があるんだな、クソ尾形さん!
どれだけ拷問されようが身体でたらしこまれようが、私に華族のお父様などいないんですよ!
私は無い知恵を必死に振り絞る。
「もうこうなったら大人しく鶴見中尉に捕まっといて、隙を見て月島さんに返してもらうか……」
……だがこの方法には重大な問題がある。
月島さんの立場が危うくなることだ。
最初に取り調べされたとき、月島さんはご自分の立場そっちのけで私を逃がしてくれた。
あの後、特にお咎めを受けた様子はなかったから、ごまかしきれたのだと思った。
でも今思えば、鶴見中尉は故意に見逃したのだろう。
その方が今後の益になると。
だが状況が大きく変わった二度目はどうなのか。
こんな歳の離れた小娘に手を出そうとしたことと言い、あの中尉はまともじゃない。
クソ尾形はどうなってもいいが、月島さんの身が危うくなるのはダメだ。
「でも一人で夕張に行くとか、もっと無理だし。この調子だと宿にも兵がいるだろうし……ああもう、どうすれば――」
「そこのお嬢さん。失礼ですが――」
あ。ヤバい。角でブツブツ言ってたもんだから、兵隊さんに見つかっちゃった☆