【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第2章 月島軍曹&鯉登少尉
我が家が三途の川では無いと証明する機会は、意外に早く訪れた。
だがしかし。
…………
寒いのに冷や汗がダラダラ出る。近くに置かれたストーブのせいかもしれぬ。
私のすぐ目の前にいる、異様な風体の男のせいかもしれぬ。
ここは何とか駐屯所(ちゅうとんじょ)という場所だそうな。地名は緊張しすぎて覚えていない。
駐屯。つまり兵隊さんがいる場所だ。
私は今、明治時代の北海道にいる。
そして私のすぐ脇にいる兵隊さんが報告する。
「山中で遭難していた彼女を地元の猟師が保護しました。
ただ西洋人の格好をしていたので、西洋人の関係者かとうちの方に」
どうするよ。どうするんだよ。
軍施設に連れてこられ、とりあえず中に通され、今は椅子に座らされている。
そして『鶴見中尉』という男性がこの部屋にいる。
「梢さん、というお名前でしたかな?
おうちの詳しい場所などを改めてお聞かせ願いたいのですが」
いや迷子の聞き取りなんて、派出所のおまわりさんとかがやるやつでしょ。
何で中尉とか、偉そうな人が出てくるの。
「すみません。私は療養でこの土地に預けられたもので、屋敷の場所など詳しいことは……」
「それはお気の毒に。しかし、ここ北海道はおよそ療養に向いている土地とは思えませんが?」
うん。山中さ迷ったときはマジで死ぬかと思った。
鶴見中尉。
目元の痛々しい傷跡と、額を覆う陶器が目を引く。
彼は猛禽類を思わせる目で私を見ていた。
「それに貴女のような卑しからぬ身なりの令嬢が、供もつけずいきなりお外へ出られたと。これは実に不合理なことですな」
「は、はあ……」
さっきから尋問されている気がする。
何も知らないフリをしないと。この時代は日露戦争直後だ。
スパイと思われたら、マジで拷問される可能性がある。
「なぜ雪の山中を歩かれていたのですかな?」
「その……山菜を採りに……」
「療養中である身で、いきなり雪山に分け入るのに家の者は黙って行かせたと!?
それ以前に今は山菜採りの季節でも何でもないでしょう!」
いや確かにそうなんだけど。
あー! もう!! 私は頭が悪いんだから、一々ツッコミを入れてこないでよ!!
いや、こっちに来たこと自体が頭が悪いか……。