【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第2章 月島軍曹&鯉登少尉
とりあえず今日はお饅頭(まんじゅう)を出し、お茶を勧めた。月島軍曹もやっと座ってくれた。
彼は軍帽を脱ぎ、丁重に礼を言って饅頭を口に運ぶ。
「ああ、甘い。こんな美味しい物をいただけるのはありがたい」
やっと顔をほころばせてくれた。
こちらも胸をなでおろす。
「またご実家の話を聞かせていただけますか?」
私は縁側に正座をし、微笑んだ。
「あんな田舎の話のどこが面白いのですか?」
自虐ではなく、月島さんは本当に不思議そう。
「いえ、面白いですから!」
当時の話を当時生きた人から、直に聞けるのは貴重なことだ。
「そうですか。まあ私も長くいたわけではありませんが……」
重い口を開き、彼がポツリポツリと話してくれるのは、遠い佐渡の話。
佐渡島の風景、当時の漁村の生活、方言。一つ一つが珍しく、うんうんと耳を傾ける。
私があまりに熱心に聞くものだから、月島さんも懐かしそうに色々話してくれた。
「こんなつまらない話を聞きたがるなんて、あなたは不思議な方だ」
一息入れ、月島さんは微笑んだ。のどかな日差しに目を細め、
「それにここはとても静かで暖かい。ずっとここにいられたら……」
そしてハッとしたように、
「失礼をいたしました!では任務がありますので、私はそろそろ――」
「あ、お構いも出来ませんで。そうだ。これ持っていって下さい」
彼が美味しいと言った饅頭の余りを包む。
月島さんは遠慮しながらも、最後は受け取ってくれた。
「ありがとうございます」
彼は大切そうに懐に饅頭を入れ、深々と頭を下げた。
「では梢さん、お邪魔をいたしました」
「お元気で」
何度目かの別れの挨拶だ。
「また私は、ここに来られるでしょうか」
「さあ」
曖昧に微笑むしかない。だが月島さんは軍帽を深く被り、
「もし私が最期を迎え、またここに来られたら、その時は――」
最後まで言わず歩き出す。
でも一度だけ私を振り返って敬礼し、そして帰っていった。
いや、だからうちは三途の川じゃ無いっつの!!
――END