【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
尾形さんはさっさと火を消し出す。
私は木の枝をくぐり、テント(仮)の中に入った。
履き物を脱ぎ、敷き詰められた草床の上に横たわる。
でも身体は疲れ切っているのに、地面のゴツゴツが落ち着かず、すぐには眠りに入れない。
モゾモゾしてるうちにフッと外の光が消えた。焚き火が消されたのだ。
残るのは真の暗闇と静寂だけ。
……いや雪が溶ける音に枝に残った雪が落ちる音。フクロウの鳴き声、冷たい風の音、キツネか何かが雪を踏む軽やかな音。
大自然うるせえ! 昨日は爆睡出来たってのに!!
そしてガサッと音を立て、尾形さんがテント(仮)の中に入ってくる。
フサッとご自分の外套(がいとう)を私にかけてくれた。
「ど、どうも……」
「ああ」
尾形さんはそう言って、私の隣に横になると――私を抱きしめた。
「え? は!?」
わたくし、キョドる。
さっきまで過剰と思えるくらい周囲を警戒してたのに、ヤル気なの?
すると冷たい声が、
「おい。勘違いしてないだろうな。野宿になれてないお嬢さんを、温めてやってるんだろうが」
「え? あ、ども。軍隊とかでも、そうすんですか?」
すると舌打ちする音。
「気色の悪いことを言ってんじゃねえよ。くっついて暖を取らにゃならんような奴が、軍隊でやっていけるか」
「それもそうですね……」
やましい気持ちじゃなく、私が寒くならないよう気を遣ってくれたのね。
「いや、だって……その、あの……」
謝るのも気まずくて、ごにょごにょ言ってると。
「いいからこっち向け、梢」
おずおずと尾形さんの方を向いた。
ふにゃ。もっと強く抱きしめられた。み、密着した方がいいよね。
こちらも尾形さんに抱きつく。
怒られるか、からかわれるかするかなと、思ったけど、相手は無反応だった。
そのまま寝るのかと思いきや、尾形さんの声がした。
「何で、俺についてきてほしいんだ」
え? 今さら次の町以降の話?
「次の町程度じゃ心配なんですよ。鶴見中尉様は怖い方だし」
「じゃあ、その次の町までならどうだ?」
「いや、それも……」
「なぜそこまで夕張まで自力で行くことにこだわる。
昨日今日の山道で、お嬢さんに旅がどんなにキツいか、身に染みて分かっただろうに」
あ。ええと……ええとぉ~。