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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第5章 尾形さん2



 夕暮れ前、尾形さんは巨木を背にした傾斜地を見つけた。
 双眼鏡で周囲をじっくり観察すると顔を上げ、

「追っ手の気配は無さそうだ。ここは見通しも良いし、ヒグマの足跡もない。今日はこのあたりで野営するか」
 白い息を吐きながらそう言って、

「梢。俺は逃走経路を確認し、ついでに何か獲ってくる。
 おまえは休んでいろ」

「はい。ありがとうございます」

 尾形さんは銃を担いで森の中に消えた。
「つ、疲れた」
 私は石の上に座り込む。
 尾形さんも楽な道を選んでくれたらしいが、山中を一日歩きづめは、さすがに堪えた。

 このまま布団をかぶって寝ちゃいたい。
 しかし次の町まではまだある。
『鶴見中尉に捕まってもいいから、やっぱ小樽にいれば良かった』と情けない考えまで頭に浮かぶ。
 しかし小樽への未練はあっても、相変わらず古民家への道は開けない。

「焚き火に使う枝を集めるくらい、しないと」

 のろのろと立ち上がり、乾いた枝を拾う。
 たかが枝拾いではあるが、太い枝はそれなりに重い。

 でも今の私は、令和時代ではなく明治の人間。
 明日の朝を無事に迎えるために、まず動かないと。

 ていうか焚き火にあたりたいっ!
 尾形さん、早く帰ってきてー!!

 声なき悲鳴が私の中に響いたのであった。

 …………

 …………

 そして尾形さんがウサギを獲って帰ってきた。
 私の集めた枝を使って火をおこしてくれ、めでたく食事になった。

 その後。

「焚き火を消しちゃうんですか?」
 私は未練がましく炎を見る。

「当たり前だろうが。おい、そっちを押さえてろ」
「はい」
 尾形さんは巨木の側枝を利用し、簡単なテントを作ってくれていた。

「辺り一帯、山しか見えないじゃないですか。こんなに木も多いし、焚き火くらい見つからないですって」

「火は隣の山からでも見える。山中とはいえ、町からそこまで離れてねえんだ。
 それにヒグマは火を怖がったりはしない。逆に火に引き寄せられ寄ってくるかもしれん」

「そですね……」
 私より野宿に詳しい人に言われたら、従うしかない。

 尾形さんは木の枝を組んだ、簡単な屋根と壁を作り、地面に乾いた葉を敷き詰める。原始的なテントの完成だ。

「梢、おまえは先に身体を休めてろ。火が消えればすぐ身体も冷える」

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