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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第5章 尾形さん2


 
 尾形さんは頭を少しかく。

「分からねえな。生活の一切の面倒を見られ、甘やかされている。
 だがその実、たいそうな疎まれようだ。
 身体が弱いから、だけじゃねえだろう? いったいどういうことだ?」

 うーむ。確かに矛盾極まりないなあ。
 尾形さんは少し考え、

「もしかして梢は親父さんの妾(めかけ)の子か?
 本妻に疎まれ、隔絶した生活を強いられていると」

 百年前っすなあ。しかし上手い説明といえば、それくらいか。
 私は遠回しの肯定の代わりにフッと笑ってみせる。

「何だ違うのか? 謎の多い女だな」

 いやいやいや! アイコンタクトちゃんと取れよ!! 逆だよ、逆!! 肯定してやったんですよ!!

 尾形さん、出来る男に見えて、実は意外にドジっ子なのでは?
 同行者がちょっと不安になってきた。

「ま、まあ当たらずと言えど、遠からずというところでしょうか」
 ああ、殿方に恥をかかせないよう気をつかえる私!!

「ふうん。だが支援してもらえるだけ、親父さんに感謝しろよ。
 普通なら妾の子なんて、放り出して知らぬ存ぜぬだ」
 
 いや遠からずとは言ったが、即確定せんでも……。

 尾形さん、今日は妙によくしゃべるな。

「梢は自分が何しようが誰も気にしないと言ったが、夕張に呼ぶくらいなんだ。最低限の愛情はあるだろう。
 男遊びなんかして、あんまり泣かせるな」
「は、はあ」

 よりによってこの男から説教をくらうとは。

「……話がすぎた。そろそろ行くぞ」
「了解です」

「道中は必要時以外しゃべるな。俺の靴跡を踏め。
 妙な物が見えたり、聞き慣れない音が聞こえたりしたら、すぐに報告しろ」
「はい」

 尾形さんは、銃をかつぎ直し、歩き出す。

「自分でもちょっとヤバいとは思うンですけどね」
 
 しゃべるなと言われたが、ついボソッと言う。

 百年後だって、男経験の多い女性は白い目で見られるものだ。
 なのに、月島さんのときも鶴見中尉のときも、さほど嫌だとは思わなかった。

 何で私は、こんなに自分自身を大事にしない人間になったのか。


「きっと私は、最初から何かが欠けた人間なんだと思います」


「…………」

 呟きへの返答は無かった。


 それはそれとして、夕張にどうやって行けばいいんだよっ!!

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