【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
「尾形さんのこと、好きに決まってるじゃないですか☆
自分だって捕まるかもしれないのに、私の危機を察して助けに来てくれて……あのときは本当にカッコ良かった♡
もし尾形さんが助けに来てくれなかったら……」
乙女っぽく、自分で自分を抱きしめぷるぷるしてみせるが。
「――と言う割には、梢は鶴見中尉殿に迫られてるとき、正直あまり嫌がってる感じじゃあ無かったよな」
……うむ。抵抗はたった数秒だったしなあ。
「怖くて何も出来なかったんです! だって鶴見様は現役の軍人さんですよ?
抵抗したり大声を出したりすれば何をされるかと――」
「月島軍曹とも寝たんだって? そのときも怖くて抵抗出来なかったってか?」
……。
逆に聞きたいんだが。いったい、いつから話を聞いていた?
「言っとくけど、月島さんのときだって誘ったわけじゃないですよ?
だいたい、尾形さんには関係ないでしょう?」
後始末を終えた尾形さんは、双眼鏡で周囲を確認している。
私は彼を冷たく見、
「男の浮気は甲斐性(かいしょう)でも、女の浮気は姦淫罪と?
ちょっと身勝手すぎやしませんかねえ?」
一回寝ただけの人に、そこまで糾弾されるいわれは無いわ。
「そう言うことを言ってるわけじゃねえよ」
尾形さんは双眼鏡を下ろして腕組みをし、私をじっと見た。そして。
「梢。おまえは求められれば――誰でもいいのか?」
遠くで鳥の鳴く声がした。
私はたっぷり一分ほど沈黙する。
「そう……なの、かなあ?」
そう言われれば、そうなのかもしれない。
「女の一人暮らしが長すぎて、そんな風になっちまったのか?」
「いやあ、それは違うと思うんですが……」
何でなんだろうな。
私の心は常に渇いてて、ぽっかりと巨大な穴が空いている。
「いいのか? そんなことを繰り返してると、周囲にそういう女だと軽く扱われるぞ?」
自分のしたことを上空一万メートルくらいに上げて、説教とな。
つか夕張に行く行かないの話で、何でこういうことになるの。
「『事故』には気をつけてますよ。それに私が男遊びをしていると陰口たたかれようが、変な男に捕まって大変なことになろうが――」
「誰も気にしない、か」
尾形さんは心得ているようだった。