【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
令和の世界に帰るため、夕張に行きたい。けど尾形さんは次の町までしか送ってくれないっぽい。
「いいじゃないですか、尾形さんも一緒に夕張に行きましょうよ。
軍を抜けたんでしょう? 父に仕事を案内してもらえるかも……」
尾形さんは最後の鳥を食べながら素っ気なく、
「悪いが、やりてぇことがある。大体、お嬢さんは野宿に耐えられるのか?
ここから夕張まで、どれだけ離れてると思ってんだ」
うぐう!
ちなみに小樽から夕張までは直線距離でおよそ百キロ。
これは、東京駅から富士山までに相当する距離だ。
むろん道中は山あり山あり山あり。ヒグマだっている。
野宿も『大丈夫!』と強がりを言いたいところだが、ここにはベッドも風呂もトイレもない、食事も簡素、もしくは”無し”だ。
それらに死ぬ気で耐えたとして、そもそもここは春先の北海道。
夜はまだまだ極寒なのだ。
「そんな軽装で、どう山越えするんだよ」
ですよねー。一日二日はキャンプ気分でどうにかなっても、それ以上は無理だろう。
まず旅支度を整えねばならんが、むろんそんな金はない。
でも一人で置いてかれたら、もっと詰む!!
こうなったら鯉登少尉の方に頼――旭川の方がもっと遠いだろがー!!
やっぱり小樽で月島さんにこっそり会うしか……いやダメだ。
鶴見中尉のことだから、絶対月島さんの動向にも気をつけてるはず。
今度、中尉に捕まったらマジでどうなるか分からん。
――となると。
私は顔を上げ、尾形さんを見た。
尾形さんは時間を無駄にしない。食べ終わるとさっさと焚き火を消し、残雪や土で痕跡を消していた。
「ん?」
私の視線に気づき、尾形さんが私を見た。
「そう、ですよね。一緒に夕張に行って欲しいだなんて、ワガママですよね。ごめんなさい」
目を伏せ、尾形さんから視線をそらす。
「好きな人と……もう少し、一緒にいたいだなんて……」
「梢……」
焚き火の始末を終えた尾形さんが私を向く。
そして――ゆっくりと雪を踏み、私の元に近づくと。
「息をするように軽やかにウソついてんじゃねえよ」
殺意あふれる笑顔で私を見下ろしていた。
「えー。そんなことないですよー」
私は頬杖ついて返答。
「わざとらしいんだよ!」
そうかなあ。