【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
月島さんが向かう先――夕張に行くと私は言った。
だが尾形さんは予想外というお顔だった。
え? わ、私、何か変なこと言った!?
「小樽じゃないのか? あんなに別荘があったのに、何でわざわざ夕張なんて遠くまで行くんだ?」
それもそうだ……。
よく考えたら鶴見中尉も今日明日はまだ小樽にいるだろう。
小樽で月島さんが一人になる隙を探した方がいいのか?
いやでも逆に捕まったら、必死に逃げたのが無駄になるし――。
「ああ、なるほど。そうか」
「え?」
尾形さんは鳥の焼き加減を見ながらニヤリと笑う。
私はドキッとした。
まさか、月島さんと私の関係に気づいて――。
「おまえの親父さん、商売が上手く行ってないんだろう?」
は?
ポカーンとするが。
「その反応からすると、図星のようだな」
いや、どの反応だよ!
でも超どや顔してるのに『全然違ぇし』と言うのも居たたまれないし……。
尾形さんは前髪かき上げ、
「ここのとこ、どこも景気は悪くなる一方だからな。別荘はさっさと売って、自分が商売をしてる炭鉱都市の夕張に、娘を呼ぼうってとこだろう?」
あ、ああ。なるほど。私の父が夕張で商売してると思ったのか。
頭のいい人との会話って楽だわ〜(棒)。
「さすが尾形さん。よくぞ見抜きました」
とりあえず合わせることにした。尾形さんも頷き、
「じゃあ途中まで送ってやる」
「は?」
「次の町まで送って宿の世話をしてやるから、おまえは電報を出して親に迎えに来てもらえ」
あ。
あああああー!!!
どっちにしろ詰んでた-!!!
あと礼金目当てと疑ってごめんなさいいー!!!
さっきの独白は嘘だから! 見捨てないで-!!
……コホン。落ち着け。落ち着け-。
だが客観的には妥当な判断だ。
尾形さんだって軍を抜け、小樽から出て旅に出る。
山歩きもままならないお嬢さんを連れ歩くなんて、普通にリスク高すぎだろう。
「そろそろ焼けたか。お嬢様のお口には合わんかもしれんが次の町まで辛抱しろ」
考えろ梢! この状況を覆す方法を!
受け取った焼き鳥をバリッとかじりながら……え。何これ超美味ぇ!! 違う違う違う!!
……。
おうち帰りたい〜。
だがやはり、懐かしい古民家は見えてこないのだった。