【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
「お嬢さん。あんたのお父上の別荘は、この近くにあるのか?」
「私の屋敷は特定の場所にあるんじゃないから帰ろうと思えば――」
すると尾形さん、疲れたようなため息をついた。
「真面目に答えろよ。こんな状況でおまえの空想につきあってるほど、俺は暇じゃねえんだ」
ん?
「だから私のあの屋敷は北海道には無くて――」
「梢? 捨ててくぞ」
尾形さんの声が少し低くなる。猫ならテシテシと尻尾を苛立たしげに振ってるところだ。
私はしばらく考え――パッと思いついた。
そうか! 分かった!
尾形さんは『北海道』にいる私を見て、私を『現実にいる存在』と認識を改めたのだ!
あの不思議な庭や、いつもいる私は夢でも何でも無いと。
で、今まで思考を放棄し、超常現象と納得してたことは『暇を持て余したお嬢様の空想』。
あの屋敷は『北海道中にある梢の父の別荘』と思うことにした。
腹は立つけど、良いことだと思っとこう。
私が未来の人間と、バレる可能性が減ったってことなんだから。
「梢?」
名前を呼ばれ、慌てた。
「そ、そうですね。こんなときにごめんなさい」
「構わん。で、どうなんだ?」
どう答える?
『〇〇にありま〜す☆』と答え、現地に行ったところで私の屋敷は無い。
『お父様に見捨てられて、もう家に帰れません☆』とそれっぽいことを言うか?
……尾形さんをそこまで信用していいのか?
彼の行動は、私の家の謝礼金目当ての可能性もある。
身体は重ねたがそれだけで身も心も信用するほど、私はお嬢様ではない。
今この時点で私に何の後ろ盾も無いと知って、それでも尾形百之助が私の面倒を見てくれる保障は無い。
「梢。いい加減にしろよ。どうなんだ?」
羽とモツをのぞいた鳥を枝に刺し、火にかけながら尾形さんは言う。
考えろ。
元の世界に帰る。そのために確実に帰れる方法を。
月島さん! 彼となら私は令和の世界に戻れる!
彼は鶴見中尉の部下だけど、可能な範囲で私を助けてくれるはすだ。
彼はどこに? 確か小樽を離れると。その後どこに行くと言ってたっけ?
『夕張なんて炭鉱しかないような場所に、何をしに行くのだ?』
温泉で聞いた鯉登少尉の言葉を思い出す。
「夕張……夕張に行きます!」