【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
色々な意味でヤバかったところを、尾形さんに助けられました。
目の前で焚き火が心細げに炎を揺らしている。
「うーん……」
時刻は朝だ。雪解けの山林に朝日がさし、遠くで雪解け水が流れる音が聞こえた。
私は腕組みをし、一人でうなる。
想像しろ、想像するんだ。暖かいお布団、ガス、水道、冷蔵庫、電子レンジ、ネット、スマホ、8Kテレビ……いや8Kテレビないけど。
百年後って、マジで別世界だなあ。
戻らないとなあ。
……私が戻らなくて、どうなる?
ええと、ほら、今日のログインボーナスとか、フレンドさんへのヘルプとか『いいね!』とか――いやどうでもいいわ!!
「ダメだ……」
念じれば令和の世界に帰れるはずなのに。
でもいくら帰りたいと言い聞かせても、あの古民家は見えてこない。
私は頭を抱える。何で? 元の世界の方がいいじゃないか。
なのにどんな便利な物も、元の世界に帰ろうと思える動機にはなってくれそうにもない。
「不味い……このままじゃ私、無職以下じゃないか!!」
真っ青になる。単品の私は金無し、生活能力無しと終わってる存在。
皆がチヤホヤしてくれるのは、私が財閥の令嬢と思ってるから。
かまどの火をおこすのだって未だ四苦八苦の私が、明治時代の日本で暮らしていけるワケがない。
「どうしよう……」
このまま戻れなかったら。
「どうもこうもねえだろ。羽くらいむしれ」
「は?」
顔を上げる。目の前に銃を抱えた尾形さんがいた。
そして私の足下に数羽の鳥が転がっていた。
そういえば、朝食を取りに行くって言っていなくなったんだっけ。
ちなみに昨晩は何もありませんでしたよ?
鶴見中尉は部下をこっそり数人連れてきたみたいで、私たちはその追っ手に追われた。
宵闇に紛れてどうにかまいた後、私は疲労でそのまま寝てしまったのである。
起きたとき、尾形さんの外套がかけられていた。
「無職で悪かったな、無職以下」
猫みたいな目に殺意を光らせ、私を見た。
昨晩のこと、根に持ってたんか!!
「あ、あの視線は照れ隠しというか軽い冗談で!!」
必死に羽をむしりながらごまかした。
「ふうん。で、お嬢さん。あんたのお父上の別荘は、この近くにあるのか?」
向かいの倒木に座って羽をむしりながら、尾形さんは言った。