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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第2章 月島軍曹&鯉登少尉



「ちょっと待って! お茶菓子も用意してますし、もったいないですから!」

 引き留め台詞として適当かは分からないが、とりあえず月島さんは振り向いてくれた。

「……私を待っていてくれたのですか?」

 いや、誰が来るか分からないから、別に月島さん限定では無いけど。
 でもそう言ったらまた落ち込まれそうだったので、あいまいに微笑んだ。

 でも月島さんは肯定と受け取ったらしい。

「…………良かった」

 聞こえないくらい小さく呟き、微笑む。それはそれは嬉しそうに。
 こっちは罪悪感で胃がギリッと痛んだ。

「こ、こっちこそごめんなさい。洗おうと思えば洗えたので、つい!」

 そう言うと月島さんは顔を上げ、不思議そうに、

「ではお女中の方がいると?先ほどは誰も出なかったのですが」

「いえ、この家に住んでるのは私一人です」
「??? 梢さんご自身が、洗濯を?」

 ……あ。しまった! またやったー!!

 洗濯機の普及は第二次大戦後!! それまでの洗濯は主婦を苦しめる重労働で、お嬢様が気軽に出来るもんじゃあない!

「ええと! 通いのばあやがやってくれてますんで!! 年のせいか耳も遠いですからねえ!」
「ああ。そうですね。失礼を。それで先ほどは聞こえなかったのですか。しかしそれなら何故――」

 こっち方面の話題を長引かせたくない。話せば話すほどボロが出る!

「それより! 今日は何を召し上がりますか!? 金平糖も羊羹も饅頭もありますよ!?」

「いえ。お茶だけいただければ」
「ご遠慮せずに」

 さっき、私が待っていると仄(ほの)めかしたとき嬉しそうにしてたのになあ。

 でも月島さんは寂しそうに私を見、

「あなたのようなご令嬢が私のような者と会っていること、ご家族は快く思われていないでしょう。すぐに立ち去りますので、ご安心を」

「そんなことないです!私に何かあっても誰も気にしませんから!」

「ご自分を軽くお考えにならない方がいい。あなたを気にかける人は大勢おります」

 そんなこと、ないから。本当に。

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