【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
「彼との仲をのぞむのであれば、喜んで取り持ちたいところだが――あなたは相手にする気はないようだし、彼も拒むでしょう」
……さっきの気まずいとこ、絶対見られてるもんなあ。
年齢差もあるし、あと(月島さんサイドから見れば)身分差もか。
ただ鶴見中尉、他にも何か含みがある感じだな。ま、いいか。
鶴見中尉は私の髪の椿を撫で、
「やはり歳と身分の近い鯉登少尉の方が? 彼はその気だし、彼の父君も自由恋愛に寛容だ。
あなたがご身分を明かして下されば、見合いの席を設けることも可能ですが――」
理解した。鯉登少尉の告白まで、あんたがそそのかしたのか。
唐突にプロポーズしてくるから変だとは思ってたが。
お、やっと口が解放された。
「……鯉登様は由緒正しき家柄。私とは格が違います」
私は吐き捨てた。
「そう言って彼を振ったと」
全然違うわ。何でもかんでも見透かされてるみたいで気持ち悪い。
「月島さんとのことも……その、あなたには関係ありません!
あれは一夜限りのことで!……ええと、とにかく終わりですから!!
それより鶴見様こそ、私みたいな小娘に年甲斐もなくずいぶんご執心ですこと!」
意地悪く言ってやるが鶴見中尉は、
「光を浴びこれ見よがしに己を誇る薔薇よりは、雪に埋もれそうになりながら、けなげに咲く寒椿の方が美しいものです。
ずっと己の手の中で愛でていたい……」
ん? 鶴見中尉の声色、ちょっと変わってないか?
「さて月島軍曹はあなたに一夜限りで捨てられ、鯉登少尉は相手にもされなかったわけですが……」
いや待て! その言い方!! まるで私が超悪女みたいじゃないか!!
突っ込むべきか考えていると、グイッと彼に向き合わされた。
「…………!」
間近で額当てと、目元の無残な傷がよく見える。
元は伊達男だろう片鱗があるだけに、なおさら痛々しい。
だがその目から、視線をそらせない。
色恋的なものではない。蛇に睨まれたカエルだ。
そして鶴見中尉はゆっくりと、
「もしもあなたが父に代わるような男を求めておられるのなら――私のような異相の者にも、機会があるのでしょうな?」
想像もしなかった言葉に、頭が真っ白になった。