【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第5章 尾形さん2
前略。明治と令和の情報格差を考慮せず、うかつな発言を重ねた結果……鶴見中尉から『卓越した情報収集力と分析能力を持つ謎の一般市民』と見なされつつあります。
宵の口。高級料亭はこれからが華だ。
そしてとある一室では。
「は……はな、して……んん!」
「落ち着いて下さい、梢さん」
遠くの部屋からは酔客の下品な笑い声やら、陽気な三味線の音やらが聞こえる。
一方私は鶴見中尉に背中からホールドされ、口をふさがれていた。
「私の態度が梢さんに不快感を与えたのでしたら、お詫びしたい。
私はただ、優れた才をお持ちの令嬢が、屋敷に押し込められ寂しく歳月を重ねる不条理を憤っていただけです」
いや全然怒ってないでしょうが。
鶴見中尉は私を落ち着かせるため――というか拘束するための腕ホールドは解かず、今にも首を絞めそうな態勢で背中からささやきかける。
「第七師団に来なさい。そうすれば、いつでもあなたの友人に会うことが出来る」
友人とかいないし!と首を振ったが。
「だが月島のことは、拒まなかったのでしょう?」
私の抵抗がピタリと止まる。
恐る恐る振り向いたが、鶴見中尉は世にも恐ろしい笑みを浮かべていた。
しまった……どうやら鎌をかけられたらしい。
「ふむ。やはりそうですか。月島はあなたについて『薄志弱行なること女児のごとし。こちらの意図を解せず任務遂行に至らず。資産の件も虚言の可能性が高く、調査対象に値せず』と報告しましたが――」
月島ぁぁぁああああああ!!
……じゃない。月島さんはワザと私のことを悪く言って、鶴見中尉に関心を無くさせようとしてくれたんだろう。
でも悪く言い過ぎて、完全に逆効果ですよソレ……。
「彼は私の良き右腕ですが、それをアッサリ落とすとは。つくづく女性とは恐ろしい」
はああ~、とため息をつく様は、どこか本音が混じってる気も。
あんたが焚きつけたんだろ!
……それに月島さんは今もあなたに忠実ですよ。何だかんだで、一線を越えてまで私に肩入れしてこないし。
だからこそ、この場に助けに来ない確信がある。
どうでもいいが、口ふさぐのそろそろ止めろ。