【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
そして半時間後、椿園の入り口に戻ると月島軍曹が待っていた。
雅(みやび)な庭園に合わぬ不機嫌オーラ。
夜逃げした客を追いかけてきた、金貸しの形相であった。
庭園に入ろうとした人たちが、月島さんを見るなり慌てて帰ってるし。
「…………」
月島さんは私の髪にさした椿の花を見て、一瞬何か言いたそうな顔になったが、何も言わなかった。
「鯉登少尉。梢さんはお身体が弱いのです。あまり連れ回されませんよう」
まあ明治の人たちと比べると体力はないが。
月島さんの眉間のシワは深い。
私たちを正座させ小一時間は説教したいだろうに、立場的に出来ないことが歯がゆそうだ。
「………………ああ、分かった」
ちなみに鯉登少尉は私の後ろでしょぼーんとしてる。
背を丸め、私が返した羽織に埋もれそうだった。
うん……誠に申し訳なかったのだが、きっぱりと断らせていただいた。
私たちを見て、何か察したらしい。
月島さんは未だ眉間にしわを寄せたまま一言、
「気は済みましたか?」
さて、どういう意味で言ったんだろうね。
私は空を見る。夕方が近い。月島さんが、
「さあ、もう帰りましょう」
この変な旅行も、そろそろ終わりの時間だ。
「楽しかったです。本当にありがとうございました」
私は何食わぬ笑顔で、二人にそう言うのだった。
…………
では解散~となるのだが、何せ私の帰り方は特殊だ。
前回も月島さんに送ってもらったし、今回もその方がいいだろうと、二人で目を見交わしてうなずいた。
が。
「待て待て! 私も梢を別荘に送っていく! なぜ私一人が先に戻るのだ!!」
鯉登少尉は大いに不満そうであった。月島軍曹は面倒くさそうに、
「あなたの方が色々とやることがあるでしょう。
先方へ書簡は送ったのですか? 荷造りもまだでしょう」
「お、おまえはどうなんだ、月島ぁ!!」
「出発前に全て終わらせましたが何か?」
「ぐぬう!」
「いつも申し上げているでしょう。期日が分かっているのですから、こういったことは計画的に――」
補佐っつか、保護者っぽいなあ月島さん。
「私も鶴見中尉殿にお供したい……」
この世の終わりのような顔で現実逃避する鯉登少尉殿。
多分さっきのプロポーズは忘却の彼方だな。良きかな。