【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第2章 月島軍曹&鯉登少尉
さて。今日も私は縁側にいた。
だが茶菓子を用意して待っていても、誰も来ない。
これは今日はハズレかなあ。
それにしても天気が良い。暖かい。気持ちいい。眠い。
ぐう……。
「!!」
パチッと目が覚め、跳ね起きる。誰かが私を見下ろしている。
「何やつ!!」
「月島です」
「へ?」
大真面目な返答に、声の方を見た。
「お邪魔をしております。家に他の方の気配がなく、女性お一人では危険かと思い私がここにおりました」
目頭からのシワと低い鼻が特徴的な、生真面目そうな軍人さんがいた。私と目が合うと少し微笑む。
「お久しぶりです、梢さん」
「月島さん、いらっしゃいませ! 来てたなら起こして下さればいいのに!」
「いえ貴女はご療養中ですし、よく寝ておられるのに、そんなご無礼は」
そうかなあ。
ちなみに月島さんは尾形さんと違い、私の『静養してる令嬢』設定を信じている。私が華族のお嬢様だと思って礼儀正しく接してくる。
慌てて起き上がると、私の着物から月島さんのコートがずり落ちた。
月島さんは、顔を赤くし目をそらしながら、
「汚いもので申し訳ありません。ですがまだ寒い季節です。
このままでは梢さんが風邪を引いてしまうかもしれないと思い……」
「いえ……」
異臭を感じ、コートに鼻を近づけた。
うーむ。ホントに臭いな。といっても体臭とかではなく草や土、硝煙、それと血の――。
「も、申し訳ありません。野営が続いていたもので!」
月島さんが羞恥に顔を歪め、コートを取り返そうとした。
だが私は悪気無く言ってしまった。
「これ、洗いましょうか?」
乾燥機あるし、二時間もあればいけるかなと。
すると月島さんはいよいよ真っ赤になり、
「あ、ありがとうございます。そこまでしていただくわけには――!」
「あ、そ、そうですね。すみません」
私もハッと我に返る。
戦前の衣類が全自動洗濯機で無事に洗えるとは限らない。
それ以前に客に対し『服を洗おうか?』とか嫌味以外の何物でも無い。
月島さんはやんわりコートを取り返すと私から少し距離を取った。
「……ではそろそろ失礼いたします」
あかん。くつろいでほしかったのに、私の何気ない言葉が月島さんを傷つけた!