• テキストサイズ

【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第4章 月島軍曹1



 鯉登少尉は、生け垣から美しく咲いた椿(つばき)を一輪――ブチッと千切った。 
 それを器用にくるっと巻き、

「ほら、梢。髪に刺してみろ……うむ。やはり似合う。あでやかだ」
 
 めっちゃ満足そう。

「お、音之進様。お寺のお坊様たちが大切に育てられている椿です。勝手に取っちゃダメですよ」 
「細かいことを言うのだな、梢! こんなにたくさん咲いているのだ。少しくらい良かろう!」

 百年後なら、このマナー違反一つで炎上するぞー?
 ほら向こうから他のお客さんが来たしー。
 だが。

「まあ、可愛らしいお嬢さん。旦那さんも男前だわあ」
「新婚かしら。花をさしてあげて、仲が良いのね」

 ……私たちを見て、何も咎めず普通に通り過ぎてく人たち。
 おおらかだなあ。昔だから? 土地柄?
 あと、私らやっぱ夫婦に見えるんだ。
 まあ若い男女のデートとか考えられない時代だしなあ。
 一方、鯉登少尉はご機嫌で、

「月島が追って来るかもしれん。梢。もっと人のいない場所に行くぞ」

 くったくの無い笑顔で笑い、私の手を引っ張って行った。

 私も昨晩のことはさっさと忘れたい。
 笑って、引っ張られるままついていった。

 …………

 そして全く人のいない一角に来た。
 新しい積雪は誰も踏んだ跡が無い。

 誰も来なくても咲いている椿は美しい。

 冬の椿とか、今までほとんど観察したことはなかった。
 でも今は、寒さに耐えて冬を彩ってくれるけなげな花に思えてくる。
 重い雪をかぶってるのが、哀れになって、つい雪をはらってやる。
 そんな私をじっと見る鯉登少尉は、

「梢。なぜ椿にかかる雪をはらう?」
「え? その……雪が重そうで可哀想になって」
「…………」
 
 あ、あかん。ガキっぽいと思われたかな。内心焦ってると、

「梢。寒くはないか? これを羽織っておれ」

 返事をする前に鯉登少尉が自分の羽織をかけてくれた。
 男物なのでずいぶんと大きいが、綿入りで暖かかった。

「ありがとうございます、音之進様」

 しかし羽織一枚渡したのに、鯉登少尉は堪えた様子もない。南の生まれなのに。きっと鍛えてるんだろうなあ。

 息を吐くと白い息がふわあっと舞った。

 微笑む私を、鯉登少尉はジッと見ていた。

/ 309ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp