【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
そして宿を出た。
そこで解散でも良かったが、お二人が宿舎に戻られるのは夕刻ということだった。
なので、それまで街を散策することになった。
「ほら梢、食べてみろ。この店の団子が美味いと評判なのだ!」
「本当ですね、美味しい!」
……といっても娯楽の少ない時代のこと。
食べ歩きがせいぜいだ。
はむはむと、みたらし団子を食べていると月島さんが言った。
「梢さん、あちらに寺付の寒椿の名園があり、参拝ついでに花を愛でる客が多いそうですよ」
う、うん……。『年寄りくさいなあ』と思ったのは顔に出してはいけない。
それにここらの景色で見るものは、木造と雪景色ばかり。
華やかな色を楽しむというのは、ぜいたくなことなのだ。
「行ってみましょうか!」
「ええ。では、ついてきて下さい」
月島さんは普通の顔で雪を踏み、歩いて行く。
……うーむ。上官がいるからとはいえ、本っっっ当に普通だなあ。
いや手をつなげとか言ってるワケじゃないけど。
命令だけで私を口説いたんじゃないとは言ってた。けど、ここまで切り替えられるとちょっと自信なくなってくる。
……まあ、いっか。深入りされても面倒だし。
「梢、梢」
そのとき鯉登少尉が、ちょんちょんと肩をつついてきた。
「何すか、音之進様」
振り向くと、鯉登少尉はニッと子供っぽく笑っていた。
「途中で月島をまくぞ。二人で庭園を散歩しよう」
「はあ」
……。
いや、出来るのか?
…………
…………
一時間後。
春が近いとはいえ、北海道はまだまだ寒さが厳しい。
名所と噂の寒椿庭園にも、ほとんど人の姿は無かった。
「はぁ、はぁ……やっと月島をまけたな」
「し、死ぬかと思った……」
私たちは庭園の一角で息を切らしていた。
え? さっきの場面からここに至るまでの、あれやこれやはどうしたって?
それねー。今回の月島さんねー。追跡がマジパ無かったんだー。
どれだけ逃げても追いかけてくる。死を覚悟したことも一度や二度では無かった。
「だが、こうして生き延びることが出来た」
「奇跡ですね!」
きれいな寒椿のもと、私たちはガシッと手を握りあい、友情を確かめ合ったのだった。
……。
そういう話だったっけか?