【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
私は人より秀でたものがあるわけでもない、平凡以下で軽い存在だ。
そんな自分でも、どうにかこうにか毎日を生きて……でもずっと一人ぼっちだった。
そしてそんな私の前に、変な人たちが現れた。
『梢。また日光浴か? お嬢さんは気楽なもんだな』
『こんにちは梢さん。こんな場所にも別荘をお持ちなのですか?』
『ここは暖かいな。不思議な場所だ。薩摩を思い出す』
『こ、ここはカムイモシリ(カムイの国)なのか?
おまえはシサム(和人)の姿をしたカムイなのか!?』
最初は驚いたけど楽しかった。
彼らと話を合わせるため、明治の生活を再現しようとしたり、当時のことを必死に勉強したり。
着物を着て、現代のテクノロジーは厳重にしまい込んで。
縁側にお茶と茶菓子を出して、いつ来るか分からない客を待つ。
明日にも終わるか知れない、百年前の世界に通じる奇妙な庭。
子供のとき憧れた世界――机の引き出しの中に異次元を発見するような、ワクワク感と優越感。
自分だけの秘密の場所。秘密の友人達。
……もっとも。そんな『少し不思議』は、子供だけのものであるべきだった。
子供じゃない奴の手に負えるシロモノではなかったのだ。
…………
薄明かりの中、月島さんは私をお膝に乗っけながら、
「その……梢さんは明治女学校か女子英学塾の出なのですか?」
真剣な顔で堂々と探りを入れてきやがる。
オールラウンダーっぽいが、女相手の諜報までは得意では無いんだろうなあ。
ちなみにどっちも、革新的な近代思想の女学校である。特に女子英学塾は後の津田塾大学だ。
「い、いやあ……別に……」
つかそんな場所に通えるほど、才能と財力と家柄があると思われてんのか私。
「ではやはり欧米への留学経験が? 英語を使うことが可能ならその才を活かせる場が――」
「いや無理です無理無理無理!!」
何が『やはり』なんすか!
それと親を引っ張り出せないなら私自身をスカウトする気だったのか、鶴見中尉!?
百年前の時代に就職するとか無いから!!
ましてあなたみたいな怖い人の下で働くとか、絶対ありえないですからね!?
「も、もう寝ましょうよ。私、眠いです」
そう言うと月島さんもハッとしたようだ。