【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
秘め事が終わり、本来ならそのまま寝るか睦言をささやき合うかであろう。
だが私は月島さんの腕の中で、真っ青な軍人さんを見るハメになっていた。
「梢さん……な、何でそんなことを……」
月島さん、動揺しすぎだ。
「いやだって、ずっと申し訳なさそうにしてるし、音之進様のことスルーしすぎだし」
「スルー……?」
「コホン。気にしなさすぎだし」
最初は私のやらかしが、月島さんを惑わせてしまったと思った。
でも段々変だなあと思うようになった。
別にそこまで月島さんを深く知ってるわけではない。
が、隣の部屋に上官を置いて凶行に及ぶだろうか?
寝る前、二人は酒を飲んでいた。
下士官の彼が少尉に酒をつぐのは当たり前。そのとき酒に何かしら仕込んだのだとしたら?
つまりは計画的犯行。
すごいな月島軍曹。
だからこそ違和感ハンパないのだ。
犯罪すれすれの手段で計画的にコトに及びそうな猫は一匹だけ知ってる。
が、月島さんは彼より数百倍は堅実に見える。
ぶっちゃけ私ごときに、そこまで強引なことをするタイプに見えない。
なら考えられる黒幕は? 彼にこんなことを命令出来る男は?
現時点では一人しか思い浮かばない。
「鶴見中尉、私のお父様に会いたがってましたもんね。どうしても会えないから、こんなことしたんですか?」
鶴見中尉の興味の対象は、あの庭や私ではなく、時代の最先端のさらに先を行く私の持ち物。
そんなものを娘にやれる、かつ不自由ない暮らしをさせてやる財力の持ち主を私の背後に見ている。
だから、どうしてもお近づきになりたいらしい。
タイムスリップのとんだ副作用だなあ。
異常事態を収束させてくれそうな組織とは未だに連絡がつかんし。ティンダロスの猟犬に見つかる前にあの古民家を出た方がいいのかなあ。
「怒ってらっしゃいますか?」
月島さんは腹をくくった顔だ。どうでもいいが浴衣一枚で寒くないのか。
「いや別に」
閉鎖的な上下関係すごいなあ、とちょっと引くが。
「……本当に?」
「ホントに嫌なら泣きわめいて助け求めてます。それと残念ですが、私が傷物になった程度でお父様は何も思いませんよ」
すると月島さんはギュッとこぶしを握る。
「……梢さん。いくつか誤解を解かせていただきたい」
はあ、どうぞ。