【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第1章 尾形さん1
そういうわけで令和の古民家の庭が、明治の北海道のどこかにつながってる。
この庭に来るのは尾形さんだけではない。定期的に庭に誰か来る。
北海道のどこにいようが唐突につながるこの庭に、私含めて皆困惑してる。
前に来たアシリパちゃんというアイヌの美少女は、私が和人の姿をしたカムイなのか、ここがカムイモシリ(カムイの世界)なのか真剣に聞いてきた。
私が否定するとホッとして、茶請けに出した板チョコレートを『ヒンナすぎるオソマ!!』と涙を流して完食し帰った。
オソマって何だよ。
その後に来た杉元さんは私の話をほとんど聞かず『アシリパさん!!アシリパさん!!アシリパさん!!!』(うるせえ!!)『俺にはやることがある!!』『俺は不死身の杉元だ!!』と絶叫しながら帰ってった。
うちは三途の川じゃねえっての。
一度だけ来た土方(ひじかた)さんというイケ老人は大物だったなあ。
全く驚いた様子もなく『世の中にはこういうこともある』と笑い、饅頭を食って帰ってった。
でも例外は土方さんくらいだ。この庭に来る人は皆、私と何とか普通に接するが、とても戸惑っている。
『この家にどれだけ居ても、何故か外の時間は経過していない』という事実が彼らの不安にダメ押しするようだ。
なので私の庭に来てることを、他人には絶対話してないっぽい。
といっても、ほとんどの人は一度来たきり来なくなるけどね。
でも逆に何度も何度も何度も来る人もいる。
基準はよく分からない。
でも来る人は歓迎したい。どうせこの古民家に、他に来る人もいないのだし。
そういうわけで、私は今日も着物を着て、お茶と茶菓子を用意し、縁側で日なたぼっこをしているのだった。
――END