【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
…………。
どうしよう。このまま出ればいいんだろうがこの後、ドライヤー類は使えない。
最後にどうしても温泉で暖まっておきたい。
サッと入ってサッと出るか。
「すみません、失礼しますです!」
わたくしタオルをほどき、簡単に髪をくくり湯船へドボンする。
二人に向き直り、
「お待たせしました。お二人も身体を洗って大丈夫ですんで」
だが二人とも先ほどと違い、様子がおかしかった。
こちらに背中を向けて微動だにしない。
「……わ、我々は大浴場の方で洗いました。梢さん、お先に上がって下さい」
と月島さん。私はきょとんとして、
「私はちょっと身体を温めたいだけので。だから二人とも湯船から上が――」
「それだけは絶対に出来ない!」
振り絞るような月島さんの声。
え。何。何なの!?
鯉登少尉はと見ると、彼もずっと私に背を向けている。
「あ、ああ。私も、もう少し暖まっていこうと思う。だから梢。先に上がってくれ!」
やけに切実な声だった。
先に上がってくれと言う割に、身体はゆでダコですかという赤さだ。
「本当に大丈夫なんですか?」
だんだん心配になってきた。ホントにのぼせてるのでは?
「大丈夫……ですから……早く……」
「月島さん!」
心配で、はしたないと思いつつ頑なにこちらを見ない月島さんの前にすいーっと泳ぎ、顔をのぞきこんだ。
「月島さん。しっかりして下さい!」
「……!!」
月島さんが反射的に目を開け――凍りつく。
やっべえ。身体隠すの忘れて、間近でもろに見せてしまった……。
「梢さん! いいから早く上がって下さい!」
「は、はい!」
追い立てられるように上がったのであった。
…………
…………
「ふい~」
お布団の上で、まだ少し湿った髪を広げてくつろいでいる。
あの後、ずいぶん時間をかけ二人はやっと上がってきた。
私は憔悴した月島さんから丁重に謝罪され、恐縮しきりであった。
妙な空気はまだ続いている。
一度、襖(ふすま)越しに二人を確認したが。
……なぜか二人は酒を飲んでいた。
ずいぶんと進んでるみたいだけど、大丈夫なのかなと心配だった。
「眠い……」
私はパタッと布団に倒れる。
目を閉じると眠りは迅速に訪れた。