【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
「こ、コホン」
私は『男に見られてるのに全然意識してない軽いお嬢さん』を装いつつ無邪気に笑う。
「え、ええ。すごいでしょう! これは西洋で使われてる髪洗い液なんです!
さっとつけてお湯で流すだけなのに、汚れがすごく落ちるんですよ!」
「ほお。なるほど。だから梢の髪はいつも美しくつややかなのだな!」
鯉登少尉は感心したようにうなずいた。
うむ。商品開発して下さるメーカーさんに感謝ですな。
「郷里の女たちは、質の悪い米ぬかや油粕で長い時間をかけ髪を洗っている。
その髪洗い液と同じものが薩摩で作れたら、皆喜ぶだろう。もし、少し残っているのなら――」
「ご、ごめんなさい。もう今使い切って残ってないんです!」
「そうなのか? それは残念だな」
……あかん。ちょっと見せるだけでも興味を引いてしまうっぽい。
やっぱ令和の品の持ち込みはこれきりにしよう。
ざっばあとお湯で泡を流し、トリートメントとコンディショナーを出す。すると、
「ん? 髪は今洗っただろう? 今度は何をつけているのだ?」
ギャラリーうっぜぇ!! いつまで見てるんだ!!
「鯉登少尉。女性の髪洗いをジロジロ見るものではありません。
士官学校で何を学ばれていたのですか?」
果てしなく低い声の月島軍曹。
「いや、分かっているが――」
「……っ!」
あ、やばい。今、腕を動かしすぎてタオルが落ちた。
大慌てでタオルをまき直すが、一瞬だけ胸が丸見えになった。
ももももしかして見られたかな?
慌てて鯉登少尉の方を確認すると、ちょうどサッと背を向けるところだった。
野郎……。
ま、まあさして豊かな胸でもないので問題無いだろう。
うん。
「鯉登少尉。あなたという方は――」
月島軍曹はまだ説教モードだが。
「……いや月島。私にあれこれ言うが、おまえ今、困ったことになってるぞ?」
「え?……あ……っ! い、いえ鯉登少尉っ!! あなただって――」
「!?……っ!! い、いや違う! これは……!」
何だ? お二人の様子がおかしいな。チラッと殿方の方を見た。
……二人とも耳まですごい真っ赤だ。
やばい。私のせいで二人をのぼせさせてまう!
残りの髪のお手入れは超適当にやり、超特急でお湯をかぶる。
よし終わり!! 出よう!!
……夜風が寒いな。