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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第4章 月島軍曹1



 しかしそれ以上のことは聞けなかった。

「うう、寒い! もういいだろう! 入ろう!」
「そうですね。やはり北海道だ。もう雪解けの頃というのに、こんなに寒――」

 ついに月島軍曹の言葉が止まる。彼は岩盤に腰かけ湯に入りかけたポーズで凍りついた。

 先に湯に浸かってた私と、ばっちり目が合ったのだ。

 ……小柄な割に良いお身体っすね。月島軍曹。
 戦場帰りだけあって傷だらけだが、むしろ勲章という感じで男らしい。

「ん? どうした? 月島」
 後から入ろうとした鯉登少尉は、月島軍曹の視線の先を追うようにし、

「早く入ら……ん……と……」

 私を凝視し、硬直。

『………………』

 私たち三人は見つめ合ったまま硬直した。

 そして私はミスった。

 永遠とも思える数秒の後――己の保身を図るあまり、私はこのとき対応を完全にミスったのだ。

 その夜の悪夢の幕開けを、己の手で起こしてしまったのだ。

 私の口から出た言葉は、

「入らないんですか? 寒いですよ?」

『特に動揺してませんが何か?』的な対応をしてしまった!!

「あ、ああそうですね」
「確かに寒い! 身体がこのまま凍りついてしまいそうだ!」

 二人は即座応じた。かけ湯をたっぷりしてたこともあろうが。
 で、ざばあっと波が立ちましてな。

 普通に二人が入ってきた。

 ……いや普通に入ってこられてどうするよ。
 温泉番組よろしくタオル巻くとかしてないから! 
 ちなみにこの時代、すでに混浴は明治新政府により法律で禁止されている。
 だが。

「い、いやあ梢さん。さすが、名湯ですね。実に素晴らしい!」
「その、梢、い、いくら、身体に良いからといって、ののの飲んだり、すすするなよ?」
「のの飲まないですよお! でも何か泳ぎたくなっちゃいますね!」
『はっはっはっ!』

 ……。

 …………。

 同調圧力って恐ろしい。
 私たちは多少ぎこちないながらも、会話が成立し出していた。
 空気を修正するタイミングを失ったのだ。

 ならばと聡明な私は考えた――ならば世間知らずで混浴に抵抗のないおバカなお嬢さんのフリをし早々に風呂を出る!! これだ!!

「じゃ、私、お先に身体を洗いますね」
『え』

 後から考えれば、それは淡々と処刑宣告書に署名するだけの作業だったのだ……。
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