【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
私が部屋付きの露天風呂でまったり雪景色を楽しんでいると、月島軍曹と鯉登少尉が入ってきた!
「うおお! さ、寒いな」
「早くかけ湯をして入りましょう」
二人は私が別室で寝てるもんだと思い込み、かけ湯をしながら普通に会話していた。
どうやらさっきの電話の件らしい。
「鶴見中尉殿にお供出来るなんて、うらやましい。うらやましいぞ月島軍曹ぉお!!
しかし夕張なんて炭鉱しかないような場所に、何をしに行くのだ?」
「鯉登少尉。ここは露天風呂です。あまり大声を出されないように」
「誰が聞いているというのだ! 温泉に来てまで堅苦しすぎるぞ、月島ぁ!」
私が聞いております。情報管理が甘いのう、鯉登少尉。
それはそれとして、どうやってここを離れたらいいんだ!
最初の時点で『きゃっ! びっくりしたあ☆』→『梢さん! 気づかずすみません!(逃走)』となるべきだったのに、タイミングを完全に逃した!!
鯉登少尉は未だに私に気づかず、ブツブツいい続けてる。
「私もお供したかった……でも今回の造反者発見では全く功を立てられなかったからなあ!!」
この世の終わりのような声を出す鯉登少尉。一方月島軍曹は淡々と、
「淀川中佐の監視も重要な任務です。
危急の事態が起こった時、あちらで即時に動ける人間が必要だ」
「ならおまえでもいいだろう! 私だって囚人捜しのお役に立てるのに!」
……囚人? 兵隊さんだし、脱獄囚とか追ってるのかな。大変だなあ。
てか、いつ声をかければいいんだ! てか源泉が結構熱い! そろそろ上がりたい!!
「……私にも銘じられた任務がありますので」
「それと月島。例の――ええと、誰だ? 尾形百之助もそうだが、他にも始末する連中がいただろう。何と言ったか……」
――尾形!?
身体から血の気が引く思いだった。尾形百之助と確かに言ったぞ!
尾形さんって、月島さんたちの敵だったの!?
彼がうちの客ってバレたら、私の立場ちょっとヤバくね!?
「杉元たちは、アイヌのコタンを転々としているようです。居所は簡単にはつかめません」
杉元? どこかで聞いたことがあるような……。
ま、いいや。私には関係ないことだ。
しかし、何か月島さんの声が暗い気がする。
そのとき私はそれ以上のことは考えなかった。