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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第1章 尾形さん1



 尾形さんは腰に手を当て、私をしげしげと見下ろす。

「この場所自体も分からんが、あんたも謎の女だ。
 何故、何も不自由の無い身分なのに家に手伝いの一人も置かない」

 昔は家電などなく何もかもが重労働。若い女性の独り暮らしは、相当特殊な状況だ。
 私は口を滑らせたと焦る。だが尾形さんは別のことを考えたようだ。

「あんた、療養とは名ばかりで、本当は家族に疎まれてここに閉じ込められているんじゃないか?」

 尾形さんはさっきより近い。野生動物に睨まれている気分になる。
 ヒヤッとするものが私の胸を撫でた。

「いえ。それは……まあ……私がどうなっても、気にする人はいないけど」

 ボソッと呟く。尾形さんに話すのは嘘だらけだけど、これだけは本当のことだ。

「へえ」

 尾形さんはまた前髪を撫でつけ、うろんな瞳で私を見た。

「うわ!」

 手首を引っ張られ、つい令嬢らしからぬ声が出てしまう。

 気がつくと立ち上がらされ、尾形さんの胸の中にいた。

「尾形……さん……」

「じゃ、俺がさらって行っても構わないってことか。梢」

「……!!」

 低く名前を呼ばれ頭が真っ白になり、しばらく凍りついていると。

「……っ。はは。冗談だ」

 尾形さんが噴き出した。そこでからかわれたと気づき、私は顔を真っ赤にした。

「尾形さんの馬鹿!もう帰って下さい!」

 そっぽを向くと尾形さんは銃をかついで立ち上がった。
「そうさせてもらう。あんたと話していると長居してしまいそうだ」

 いや毎度一時間もいないでしょうが。

「それじゃあな、お嬢さん」
「お元気で、尾形さん」

 いつまでこの庭が、明治時代につながっているか分からない。
 彼も軍人で、次に会うまで生きているか分からない。

 私たちの挨拶に、再会を約束する言葉は入れない。

 尾形さんは振り向かずに片手だけ上げ、生け垣の向こうに立ち去った。
 私は小さく息を吐き、奇妙な逢瀬が無事終わったことに安堵する。

「さて」

 チラッと見たのは縁側に放られた鳥さん。

「どうやって料理すんの、これ……」

 クック○ッドにジビエの調理法って載ってるかなあ、と思いながら立ち上がった

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