【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
思えば第一印象が悪かった。私も鯉登少尉も。
あるとき、誰も客が来ないので縁側でぐかーっと昼寝してたら、
『いい若い娘が何だ! 昼間から働きもせずだらしのない!!』
……鯉登少尉に叩き起こされた。それが初対面であった。
どうせ一回限りの客だろうと思い、いつもの通り『身体が弱く家族に疎まれ、ここに置かれている』的な嘘八百を言って、とっとと帰ってもらおうとしたのだが。
『何!? こんな広い屋敷に一人きり!? 病というだけで女中すらおかず、何という親だ!
私が話をしてやる! 父親はどこにいる!!』
……想定以上に感情移入されてしまった。
そのまま家に上がろうとするので、
『ちょっとちょっと! 落ち着いて下さい、何か知らない変な人!!』
『その呼び方は何だ! 私は鯉登音之進だ!!』
『大丈夫! 生活に不自由がないよう配慮されてっから! だから止まって! 音之進様ー!!』
……その場の流れ的な呼び方が定着してしまった。
本人から特に注意も入らないので、今も名前呼びなままになってる。
そして一回限りだと思ったのに、鯉登少尉はその後何度も来るようになったのだった。
…………
というようなことを、私は月島さんに話した。
「そんな感じで、会うたびに生活指導いただいてますね」
口うるさい兄が出来た気分だが、他の軍人さんより会話しやすいことは確かだ。
茶をずずーっと飲むと、隣で月島軍曹は長々とため息をつく。
「全く。あの人は自分を棚に上げてよくもまあ……」
けど、その顔にさっきみたいな暗いものはない。むしろ一気に機嫌が良くなった感があった。
何なんだろう。月島さんは、時々よく分からん。
そして襖(ふすま)が勢い良く開き、ご機嫌な鯉登少尉が現れた。
「梢、月島! いい風呂だったぞ!! 眺めが最高だった!
やはり鶴見中尉殿もお呼びすれば良かったなあ!」
『いや、それはちょっと……』
私と月島さんの声がそろった。