【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
私はやっと解放され、スススと火鉢の前に戻った。
鯉登少尉は腕組みして呆れ、
「全く。そんなに寒いならメシの前に温泉に入ってくるか?」
「うーん……」
魅力的ではある。あるのだが……。
「着物を脱ぐのが寒いっす」
「梢ー!!」
鯉登少尉が私の肩をつかんでガックガクと揺さぶる。火鉢にぶつかるだろうが。
「音之進様、止めて下さい。肺の病が悪化するではありませんか……ゴホ、ゴホ!」
「湯治のためにここに来たのだろうが! それと前から思っていたが、その咳はワザとらしいぞ!」
「申し訳ありません。まさか自分の身体がここまで弱いとは思わず」
「だらしがないだけだろうが!」
「止めなさい二人とも!」
保護者……じゃなかった、年長者の一言で私たちはピタリと止まる。
つか月島さん、着物姿だとホントに賭場に出入りしてそうな凄みがあるなあ。
月島軍曹はゴホンと咳払いし、
「鯉登少尉。梢さんは温暖な屋敷から、急にこちらに来られてお疲れなのです。無理強いはいけません」
いいぞー、月島さん! もっと言ってやって!!
「ですが梢さんも、あまり火鉢に当たりすぎないよう。長火鉢は病によろしくないとも聞きます」
うん。まあ灰だしね。
「おお、そうだ! 食事前に雪見風呂と行くか! 私は先に露天風呂に入ってくるぞ!」
鯉登少尉はパッと気分を切り替え、とっとと部屋を出て行った。元気だなあ。
と思ってると、火鉢にかけられた鉄瓶が取られ、とくとくと何かに注ぐ音。
ほどなくして。
「梢さん、お茶をどうぞ」
スッと湯飲みが差し出された。
「ありがとうございます――て、すみません! 月島さん!」
普通にずずーっと、茶を飲みかけて慌てる。
これでは、マジで月島さんが召使いみたいじゃないか。
「お茶くらい自分で淹れますよ、もう」
すると月島さんは私の隣に座った。
「いえ自分の物を淹れるついでに」
「ど、どうも……」
「それと大浴場は気が引けるのなら、部屋付きの風呂もあるようですよ。
のんびりと雪景色を楽しむことが出来るそうです」
…………バレてるし!
いや知らない人と、お風呂に入るってのがちょっとね。
キョドる私を、ちょっと笑って見てる月島さんであった。