【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
私たちが泊まったのは、創業が明治初期という数奇屋造りの旅館であった。
外国人の富裕客も想定し、京の名棟梁(とうりょう)を呼んで造られたそうな。
「……これはすごい」
月島軍曹は、客室から見える雪景色に目を見張っていた。
丁寧に雪囲いされた日本庭園は、欧米の賓客からの評価も高い――と、仲居さんが少々自慢げに言っておったっけ。
この庭園を見ながら風呂に入るのが乙だそうな。
「ふん。薩摩には及ばんが、北海道の旅館もなかなかのものだな」
おぼっちゃんな鯉登少尉は偉そうである。
まあ今回の私の宿泊代は少尉殿のポケットマネーから出てるので、強気なことは言えないけど。
「ほら梢も来て見ろ、見事だぞ」
「梢さん。庭をご覧になりませんか?」
「……………………さむい」
わたくし、火鉢に手をかざし微動だにしない。
緊張で忘れてたが、ここは冬の北海道だぞ!!
客室に案内され、緊張が解けるやいなや、私は火鉢の前にダッシュして温まっている。
二人はそんな私を見てしばし沈黙。
やがて鯉登少尉がずかずかとこちらに歩いてきた。
うお! いきなり脇に手を入れるなよ!
「そう寒くはないだろう? もうすぐ雪解けになるんだぞ? ほら来て見ろ……ぐぬぅ!」
「うおおおおっ!!」
私の両脇を抱え、火鉢の前から話そうとする少尉。意地でも動くかと踏ん張るわたくし。
「な、何という力だ! おまえ本当に病弱なのか!?」
足に力を入れ、理不尽な暴力に抗う私であった。
「鯉登少尉。女性に乱暴な真似は……」
月島さんが止めてくれようとするが、
「おまえがそう言って甘やかすから、梢がますます弱くなるのだ!
ええい、半纏(はんてん)を何枚も重ね着しおって、だらしのない!!」
あんた、私の兄ちゃんか!!
だが現役軍人さんの力には叶わず、ずりずりと愛しの火鉢から引き剥がされた。
「ほら、見てみろ!」
「うわあ……」
両脇を抱っこされ、無理やり庭園を見させられる。
雪に包まれた庭園は、語彙(ごい)を失う美しさであった。
「だが寒い!! 下ろして下さい! 障子も閉めて!」
白い息を吐きながら抗議する。
スッと障子を閉めてくれる優しい月島さん。
一瞬、ため息が聞こえたが気のせいであろう。