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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第4章 月島軍曹1



 しかし『行きたい』という意思表示を一瞬でもしてしまったのは、やはり失敗だったようだ。

「ということは、やはり行きたいのだな、梢。見かけによらず遠慮深い奴だ!」
「しばらく騒々しかったので、温泉で骨休めをしたいと私自身も思っていたのです。ご一緒いただければありがたい」

 鯉登少尉の発言は寛大な心で流すとして、だんだん外堀埋められて行ってる感ないか!?

 いやいや。頭脳戦なら負けてはいない。でもこの段階から話題をそらすのは難しい。
 なら別の手を。二人が共謀して私を温泉に向かわせようというのなら、再び争わせるまで!

「でも迷っちゃいますね。お宿と旅館、どっちが――」

「もちろん旅館に決まっておろう!」
 あっさりと共闘関係を放棄する鯉登少尉。彼は年上たる月島軍曹を指さし、

「おまえがこんな人相の悪い男と歩いてみろ!『人買いと身売り娘』と勘違いされるわ!」

「…………。い、いえ、月島さんはそんな人なんかじゃ!」

「梢さん。一瞬、うなずきかけませんでしたか?」
 月島軍曹、声低いて!

 い、いや月島さんはちゃんと話せば実直なお人柄と分かるのだが、目立つ深いしわもあり、何というかその……確かにガラが悪い。

 それはさておき、さっきから、どうにも脳裏に山猫がチラつく。
 二人は不定期休の軍人さんだ。今、どうにか言い逃れれば、当分は逃げられるはず。

「残念です。お二人のどちらのご紹介も魅力的すぎて。
 それにせっかく選んで下さったのですからお一人のご提案を蹴って、どちらかとだけ泊まるなんて出来ません」

「そ、そんな……梢……」
「梢さん……別に俺……私はそんな……」

 くく。私のいじらしさに二人が引きかけている。
 もう一押し!

 私は三つ指ついてお二人に頭を下げる。

「お気持ちだけありがたく受け止めたく存じます。
 月島さん、音之進様、この度は本当にありがとうございました」

 その瞬間。

 誰かがギリッと歯を食いしばる音が聞こえた気がした。

「…………『音之進様』?」

 え?

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