【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
二人の気をそらすために『温泉に行きたい』発言はしたが、私の演技があまりにも素晴らしすぎて、お二人をその気にさせてしまった。
「梢さんが温泉で療養されたいと聞き、いつもお茶をいただいているお返しが出来ればと」
「温泉はいいぞ! その旅館は海鮮料理が美味いらしい! おまえの療養にもなるはずだ!」
鯉登少尉は単に自分が旅館泊まりたいだけじゃね?って気もするが。
でも明治時代の温泉かあ。何だかんだで、あれ以来、明治の北海道には行ってないし――。
『梢』
……。
…………。
なぜだろう。ありえない熱っぽい目で、私を抱きしめる山猫の幻覚が見えた気がした。
「…………」
「おお! 嬉しいか、梢!! そんなに顔を赤らめて!」
「梢さんに喜んでいただけて良かったです」
え、ええ!? 私、顔が赤くなってた!? いやでも違うって!
……あとなぜ、あんたらお二人とも、私の反応が『自分に対してのもの』と確信されているのか。
ええい! あの野良猫のことはどうでもいい!
「えと、えとですね。お気持ちは嬉しいです。しかし正直申し上げにくいのですが、やはり男性と温泉というのは――」
「おいおい梢~? おまえは何を想像しているのだ? なあ、月島?」
「鯉登少尉。梢さんに失礼ですよ――ご心配なく。我々は梢さんの療養をお手伝いしたいだけですので」
待てコラ。さっきまで張り合うみたいにしてたのに、何で急に調子を合わせてんだ。
でも『下心あるだろ』と言いたげな発言は、確かに失礼だったかも。
う、うん。お二人とも良い人だし、今は親切心が暴走してしまってるんだろう。うん!
ならばなおのこと、余計なお気遣いは不要と伝えねば。
あー、でも明治時代の北海道の温泉かあ。
「お二人のお休みを潰してしまうのは申し訳ないと言いますか……場所を教えていただければ私一人で行――」
「格式高い旅館が、若い女一人を泊めてくれるわけが無かろう。家出娘と通報されるかもしれんぞ?」
「女性のお一人旅は目立ちすぎます。軍隊が駐屯しているとはいえ、ヤクザ者が出入りしている賭場も多い。目をつけられでもしたら何をされるか」
即レスであった。
百年前の一人旅事情&治安事情ぉおお!