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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第4章 月島軍曹1



「梢さん、お大事に!」
「また見舞いに来てやる!」

 そして二人は何度か振り返りながら、元の時代へ帰っていく。

「ご武運をお祈りしております」

 私は二人の姿が消えるまで手を振っていた。
 ――が、内心は高笑いしたい気分であった。

「く……くはははは!」

 話を豪快にそらし、さらに女の情に訴えて混乱させ、直前の質疑応答を忘却の彼方に押しやる!

 何て高度な計算が出来る私! 前から思ってたが、私、ちょっと頭良すぎじゃね!?
 きっと未知の存在も私の有能さを見込んで、このタイムスリップ庭の番人を命じたに違いない! 

 と、私は一人悦に入っていた。

 このときは。


 …………


 …………

 私は火鉢の前で硬直していた。頭の中にあるのはワンフレーズ。

 どうしてこうなった。

 どうしてこうなった。

 ど う し て こ う な っ た ! !

 しかし私の混乱をよそに、鯉登少尉は嬉しそう。座布団にあぐらをかき、私に、

「上官殿から、小樽近郊で評判の良い温泉旅館の話をいくつか聞いてきた。
 私は鶴見中尉殿のご命令で、もうすぐ旭川に戻らねばならんが、その前に休みをいただいている。
 そのとき二人で行こう」

「…………は?」

 だが鯉登少尉を遮るように、月島軍曹がずいっと身を乗り出す。確固たる意志を持った目で、

「地元の住民から湯治(とうじ)に良いと評判の、温泉宿の噂を仕入れました。
 私は近日中に、中尉殿と一旦小樽を離れますが、その前にお休みをいただいております。
 梢さんさえよろしければ、付き添いに私が同行いたしましょう」

 いや。ちょっと待てや。
 前回までただの茶飲み友達だったのが、何で一緒に温泉に行く仲に昇格してんの。

 何で一気に距離を詰めてきてんの!!

 
 ……先日の一件の後。しばらくは客が来ない平和な日が続く――かと思われたが、二人がいきなりやってきたのだ。

 私自身も忘れていた温泉の情報を持って来たという。
 
 何。

 何であんたら、二人して温泉情報を持って来たんすか。
 
「梢。もちろん私と行くだろう?」
「梢さん。ご自分の気持ちを正直に仰って下さい」


 いや正直にと言われても……。

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