【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
「今度療養を兼ねて北海道に遊びに行こうと思ってるんですが、良い温泉をご存知ですか?」
唐突な私の発言に、ポカンとするお二人。
「……梢、いきなり何を言い出すのだ」
「あちらの気候は、あなたには厳しすぎる。オススメは出来ません」
く……くくくくく! 引っかかったな。計算通り!!
私は切なげに微笑んだ。
「そ、そうですよね。お二人が私を心配して下さるので、あまりに嬉しくて、甘えてしまいました。
温泉に入って身体を丈夫にする夢なんて、一生夢のままなんでしょうね……困らせてすみません」
別にそこまで温泉に執着してないが、これもまた演出のうち。
私はワザとらしく目元をぬぐい、微笑む。するとビクッとするお二人。
「い、いえ、そんなことは……そこまで行きたいと思っておられると分からず、申し訳ありません」
「そうだぞ、梢。おまえはここに閉じ込められているのだ。少しくらい羽をのばしたいと思って誰が責める!」
いや、すでに十分すぎるほど羽を伸ばしまくってるしなあ。
だが――ここまでの流れも計算済み!
「ありがとうございます。でもこれ以上のお気遣いは結構です。今頃お庭の外で、第七師団の皆様がお待ちですよ」
『…………』
「小娘の私に難しいことは分かりませんが、きっとお二人には命をかけてやるべき大切なお役目があるのでしょう?」
『……!!』
つか戦場帰りの兵隊さんたちらしいことは知ってるが、そういえばこの人たち、いつも何してるんだろう?
初めて明治の北海道に行ったときも、超物々しい雰囲気だったし、さっきも『造反者の追跡』とか物騒なこと言ってたしなあ。
まあいいか。私には関係ないことだ。
「私を哀れんで下さるあまり、お二人が鶴見中尉様からご叱責をいただくことになったら、私は悔やんでも悔やみきれません。もうお戻り下さい」
「…………」
「鶴見中尉殿……」
二人はグッとうつむき、
「分かりました。梢さんこそ我々へのお気遣い、感謝いたします」
ついに月島軍曹が立ち上がる。
「長居してすまなかった、梢。静養に努めるがいい」
鯉登少尉も私から離れた。相変わらず偉そうだが。