【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
「あ、あの。お二人ともありがとうございました。ではお言葉に甘えて休ませていただきますので……」
私は冷や汗をかきながら言ったのだが。
「縁側で寝ていれば良かろう、梢。何なら布団を敷いてやろうか? 布団はどの部屋にある?」
意外と親切か!!……鯉登少尉、親しくなると距離感無くなってくるタイプだったのか?
「……少尉殿。女性の家に入るものではありません。梢さんがお困りでしょう」
月島軍曹は相変わらず渋い顔だった。
「中に上げようとしたのは誰だ。おまえこそしつこいから、梢がげんなりしているぞ?」
してない! いやしてるけどしてない!
何で人をダシにして意地の張り合いしてんですか!
鶴見中尉! 何とかして!!
「――て、いないし!!」
第七師団の皆さん、すでに百年前にご帰還されていた!!
「ほら、鶴見中尉様も行かれましたよ! お二人もお早く!!」
『……』
私が急かすと二人も黙り込んだ。だが同時に顔を上げ、
「梢さん、家の中でお休みになりますよね?」
「縁側で日光浴をするのだろう? 梢」
……は?
いや、何で二人とも『この答えを聞かずここを動くまい』みたいな殺気を向けてきてんの!!
「月島、女にしつこくするものではない。嫌われるぞ」
「鯉登少尉こそ、馴れ馴れしすぎるのではありませんか?」
……何なんだ、この茶番劇。
だがうかつに答えを保留したりすると、こっちの方に飛び火する。
「梢?」「梢さん?」
えーと。いやどっちで寝るかと言うだけの話なのだが。
何故だろう。この答えがある種の『意思表示』である気がしてならない。
それは何か色々マズい気がする。何かないか。何か何か……。
わたくし、ポンと手を打った。
「そういえば、今度療養を兼ねて北海道に遊びに行こうと思ってるんですが、良い温泉をご存知ですか?」
一瞬、間があり。
『はあああっ!?』
と、大声が庭に響いた。