【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第1章 尾形さん1
「何の音だ?」
「あ! こここここここれは!!」
スマホを座布団の下から出し、高速で画面を確認。
着信!? 後にして!!
申し訳ないと思いつつスマホの電源を消す。数秒が数時間にも思えた。
ようやくスマホから光が消え、21世紀の大発明品はただの板になる。
隠そうと思ったが、尾形さんは瞳孔を細め――なんか猫っぽいなあ――しげしげとスマホを見ていた。
「それは何だ? 欧米のカラクリか?」
明治の軍人さんが! スマホを見てる!!
「そそそ、そうなんです!自動で音楽が鳴って光る鉄の板なんです!面白いでしょう!?」
「鉄には見えない。あんたは軽々と持っていた。その表面の光沢もガラスか? どうやってはめ込んでいる? 一体どんな技術だ?
そんな薄いのに音を鳴らす機構が仕込まれているか? 一体どこの国のものだ? 触ってもいいか?」
やばい! スマホに完全に興味津々だ!
だがスマホに触らせるわけにはいかない!
万が一、仕組みが解明され、明治時代の日本で技術革命が起こされようものなら世界の歴史が変わってしまう!!
だから私は、この古民家にある機械は可能な限り隠していた。
万が一家電が見つかったときは『父が買ってくれた西洋の最新のカラクリ』で通していた。
私が焦っていると尾形さんは触る寸前で手を引き、フッと笑った。
「冗談だ。そう困った顔をするなよ。壊すと親父さんがうるさいんだろう?」
「あ、いえ……」
気を悪くさせたかと焦るが、何かが縁側に放られる。鳥だ。
「それでも食って精をつけておけ」
と、前髪をかきあげる。
「あ、ありがとうございます。何を作ろうかなあ」
「お嬢さんに作れるのか?」
皮肉めいた物言いにムッとし、
「あ、当たり前でしょう。この家に住んでるのは私だけなんですから!」
そう言うと、尾形さんは呆れたように、
「あんた、本当に箱入りだな。よく知らない男に家に自分一人だけだとバラすか?」
「うっ!」
た、確かに。
「いや、その、でも。尾形さんは……そんな、悪い方じゃないと……思います」
うつむきながら言うと、頬に手を当てられドキッとした。
気がつくと山猫のような鋭い瞳が私を見据えている。
「男を見る目も無い」
自分で言うか。
でもそれでいて、何か嬉しそうに見えた。