【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
ほとんど全員が平常心ではいられない中、鶴見中尉だけが余裕のお顔であった。
「お茶をいただいた上、さらに図々しい申し出とは存じておりますが、井戸の水をいただければありがたい」
「は、はあ、いいですよ……」
向こうはまだ雪が深いらしいからなあ。
『水が欲しいなら、雪を食えばいいんじゃね?』と考えてしまう。
が、雪をじかに食べると冷たい雪を身体で溶かすため、体温も体力も奪われる。やっちゃいけない危険行為なのだそうだ。
「じゃ、皆さんの水筒を集めておいて下さい。後で水道から汲んでおきますので」
「ほお、水道がおありになるのですか。ご家族の方に是非とも御礼を申し上げたいのに残念なことです!」
「は……ははははは……」
唯一の救いは、この庭に関して鶴見中尉の追及がないことだ。
そういえば他の客も何だかんだでこの古民家の奥にまで乗り込んだり、私が困るまで問い詰めるといったことはしない。
どう考えても怪しいこの場所について、深く突っ込んで考えたり軍事利用をしようとしたりする気配がない。
これもこの庭が持つ、超常現象的な力の一つなのかもしれない。
私はこの庭に関して、ずっと傍観者を貫くつもりだった。
だが先日、百年前の人と身体の関係を持ってしまうという重大事故を発生させてしまった。
だから最近、現状放置はどうかなあと思い始めてる。
でも超常現象を扱う財団に連絡しようとしてるんだけど、見つかりそうで見つからない。
一カ所だけ見つかった!と思ったらサメを殴る別団体だった。うちの庭にサメが出たら即、駆けつけてくれるらしい。
「梢さん?」
「ああもう! うちの庭にサメが出ないかなあ! マジで!!」
「は!?」
――は! わ、私はさっきまで何を考えていた!?
どうやら、いっぱいいっぱいになって、意味不明な思考をしていたらしい。
「梢さん、お気を確かに」
月島軍曹だ。私の目の前にいた。顔をのぞきこみ、心配そうにしている。
「す、すみません。謎の電波が下りてきまして、つい歓談を!」
「申し訳ありません。お身体が弱いのにご無理をさせてしまい」
「いえそんな……ああ、目まいが!」
よろめくと、ガシッと私を支える腕があった。
「身体が弱いとなぜフカ(サメ)がどうとか口走るのだ?」
うっさいわ、鯉登少尉!!