【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第4章 月島軍曹1
今日は暖かいなあ。日差しが穏やかで、風は優しくて。
「春はまだ遠しと言えど、火鉢がいらない陽気はありがたいものですな」
鶴見中尉は縁側に腰かけ、機嫌がよろしい。
「ええ、そうですね……。お、お茶をもう少し飲まれますですか?」
「これはかたじけない! 移動中にこのような場所で休むことが出来、実にありがたいですな!」
「そ、そうですね……」
『…………』
風は優しいが空気はギスギスしている。
そのギスギスした雰囲気をかもしだしているのは私と――庭にいる『皆さん』だ。
「あの、皆さん、お、お茶のおかわりは……」
私は薬缶(やかん)を持ち上げ、恐る恐る聞いた。
「いえ、結構です。お気遣いなく」
月島軍曹がキッパリと答えた。
彼は鶴見中尉のそばに直立不動である。
いつもより顔のシワが深いように見えるのは、気のせいではあるまい。
あと『自分以外の奴もこの庭に来れるのかよ』とショックを受けているようにも思える。
だが私はウソをつき続ける必要がなくなり、むしろホッとしている。後で謝っとこうっと。
そう。今日はお庭にお客さんが複数いらしているのだ。
まず先にも言った鶴見中尉。そして月島軍曹。
そして――。
温暖化久しい令和の庭で、皆さん戸惑ったような顔だ。
警戒心むき出しでキョロキョロしている人もいる。
腹をくくったのか、地べたにどっかり座って茶を飲んでる人もいる。
その数、十 数 人 。
わーい! 第七師団の人たちが遊びにきたよー!
……こんな大人数が来たことは一度たりともない。
庭の向こうにそんだけの軍人が見えたときは、この世の終わりかと思った。
というかお茶が足りんわ!! 紙コップなんて出せないから、湯飲みを回し呑みしてもらってる!
でもお湯をわかすのが全然追いつかないから、こっそり電気ケトル使うハメになってるし!!
鶴見中尉殿は、お茶をズズッと呑みながら首を傾げた。
「造反者の追跡中に梢さんの別荘に行き当たるとは、不思議なこともあるものですな!
とはいえ歓迎いただき、非常にありがたい!」
「はははは……」
いや歓迎してないから!! こんな大所帯でうちに遊びに来るなよ!!
それと今、造反者の追跡とか怖いこと言ってなかったか!?
私は終始、引きつり笑いだった。