【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第3章 ラッコ鍋(尾形編)
私が覚えているのはこうだ。
いつも通りに尾形さんを迎えた。
尾形さんの機嫌が少々悪かった。ただその理由はイマイチ覚えてない
その後、腹が空いたと言われ、もらった肉で鍋を作った。
ええと……何のお肉だっけ。それもよく覚えてない。
その後、身体の関係になったらしい。
……。
…………。
話の飛躍が半端なくないか?
途中、絶対に百行くらい抜けてるだろ!?
だがそうなったのは事実だ。身体は少々ダルいが、ひどく痛むとか、どこかケガをしたという感じはない。
つまり犯罪性を帯びたものでは無く――合意。
い、いや何でだよ!?
頭を抱えても、すっ飛ばした百行の内容を思い出せない!
尾形さんが肉に何か仕込んだ?
いや、さばいたのは私だし。
もしや鍋に揮発性の怪しいドラッグを!――いや明治だと大麻やアヘン全盛期。現代のような変なドラッグがあるとは思えない。
「うーん」
つか『きゃ! 尾形さんと初体験しちゃった♡』という初々しい感情を抱くべきだろうに、感慨はゼロ。
ちなみに尾形さんへの好感度も、プラスマイナスゼロ状態だ。
私も悩むが、尾形さんも悩む。
「本当に何も覚えていないのか……」
縁側に座る尾形さんは、極めて珍しいことに、感情の整理がつかないご様子だった。
だが、立ち直りは女の方が早い。
私は尾形さんの肩をポンと叩き、親指を立てた。
「大丈夫です。責任を取れとか野暮なことは申しません。誰にだって間違いはございますよ」
「おまえ、強いな……」
ガクッと気落ちしたように見えたが、気のせいか?
いや120%気のせいだな。だって尾形さんだし。尾形さんだし。
尾形さんに色々聞いてもいいんだろうが、どうせこの自由な殿方は『ヤレそうな女がいるから』程度の理由で手を出してきたのだろう。
私が覚えてないからと、ショックを受けるなど笑止千万である。