【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第9章 うちの庭が明治の北海道につながっていた件
これまでのお話。旭川で尾形さんと一瞬の再会の後、私は鶴見中尉たちのいる小樽に戻ることになった。
しかし、どうも極秘の旅らしい。てなわけで鯉登少尉と二人というこぢんまりした旅である。
だが。
「梢! よし寝るぞ!!」
「いや静かにして下さいよ」
ボンボンとの二人旅。料理から片付けから寝場所選びから寝床作りからぜーんぶ私がやるハメになった。背中痛ぇ!!
空は夜だ。
私は草床に横になり、寝場所が固いだのぎゃあぎゃあ言う相手に冷たい一瞥(いちべつ)をくれる。
「鶴見中尉は野宿の際、そんなことは仰いませんでしたよ?」
ピタリ。
鯉登少尉は騒ぐのを止めると無言で私の隣に横になる。
「し、しかしだな――」
まだボソボソ言ってくるが、
「将校であらせられる御方が、こんなことにも耐えられないと?
ああ、鶴見中尉様が知ったら、どう思われるでしょうか」
言葉の効果はバツグンであった。
「た、耐えられないワケがなかろう!! ただ女のおまえが耐えられるか気がかりだっただけだ!」
ぶっきらぼうに言い、今度こそ私の隣に横になった。便利だコレ!!
よしこれで眠れる!
が。
「梢……」
「ダメ」
後ろから抱きついてくんな! 足をからませてくんな!!
「何故だ?」
さわさわと胸を揉むな! うなじに口づけるな!! 胸元に手を忍ばせようとすんな!!
「極秘任務の最中でしょう? この前だって襲撃があったし」
「……」
沈黙があった。まあその逃亡の最中に私に手を出した奴がいたが、そのことは記憶から抹消するとしよう。
そして本当に渋々という感じで鯉登少尉は私の胸から手を離した。
けど私の身体に腕を回したまま、しっかりと抱き寄せてくる。
野宿って面倒くさいなあ。
「次の町で大人しい馬を借りるかしましょう。私、この旅の間に馬に一人で乗れるよう頑張ります」
もう苦手とか言ってられない。トラウマがどうこう言ってたから、尾形さんと逃げるチャンスをふいにしたのだ。
「梢。おまえは強いな」
「は?」
鯉登少尉は私の髪を愛おしげに撫でながら言う。
「こんな小さな身体で何でもやってしまう。度胸もある。おまえは本当にすごい」
……いや。民間人よりサバイバルスキルが劣る軍人の方がヤバくないですか?