【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第9章 うちの庭が明治の北海道につながっていた件
かくて数日後。
後のことは残った部下の人たちに任せ、私たちはこっそり出発した。
…………
馬に揺られながら、私は旭川のにぎやかな街並みを思い出す。
『軍都』と呼ばれるだけあって、鉄道が敷設されるくらい発展していた。
さして思い入れも無いが、立ち去るとなるとどこか寂しい。
「梢、不安か?」
私の前で馬の手綱を握りながら、鯉登少尉が仰る。
鼻歌を歌いそうなご様子だ。
「不安です」
私はキッパリ答える。殿方を立てるのなら、ここは『いいえ』と応じるべきであろうが、梢さんはウソがつけない性格なのだ。
「ふっ。心配するな。私がついて――」
「音之進様、もう夕方ですが、宿とか大丈夫なんですか?」
「――――」
沈黙。
「だ、大丈夫だ。今日のうちには次の町に――」
「お馬さん、朝より疲れてません?」
「…………」
いかに軍馬と言えど、二人も乗せていては負担だ。加えて、荷物もそれなりにある。
「絶対に予定通りには行きませんって」
「うぐうっ!!」
血を吐きそうな鯉登少尉。
プライドを傷つけること言っちゃったかなあ。
けど私も人のことは言えない。そもそも私が馬に乗れたらこうはならなかったんだしね。
「生意気言ってすみません。でも、もう一人くらい部下の方をつけた方が良かったのでは?
それにお世話になった方々に挨拶もしたかったのに……」
すると鯉登少尉は沈黙し、
「特別な任務だ」
とだけ言った。
頭の良い私にはピンと来た。また徳川埋蔵金絡みであろう!
この件に関しては誰が敵で味方か分からない。
旭川に行くときも襲撃があったし、情報漏れからの襲撃含めて警戒してるんだろう。
「梢。不安もあるだろうが、私は何があってもおまえを守る。安心してついておれ」
「音之進様……」
急に背中が頼もしく思える。彼も明治生まれの薩摩隼人。私ごときとは覚悟も使命感も違うのだ。
馬鹿にして失礼だった。
私は力を抜いてコテンと、背中にもたれる。
小さく笑う声だけが聞こえた。
…………
…………
「梢ー! まだ火はおこせないのか!? うわ! 虫が出た!!」
「やかましい! 騒いでる暇があったら、寝床に敷く草でも集めてて下さいっ!!」
小樽はまだまだ遠い……。