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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第9章 うちの庭が明治の北海道につながっていた件


 
 空は満天の星空だ。しかし鑑賞ばかりもしていられない。明日の旅に備えて寝なければ。

 うーむ。

 もぞもぞもぞ。寝られぬ。

「梢?」
「はい?」

 鯉登少尉に呼ばれ、肩ごしに振り返る。月明かりに端正なお顔が見えた。
「こっちを向け」
 鯉登少尉の方を向かされる。そして少尉殿は私を優しく抱きしめる。また頭を撫でて、
「さっきは怖がらせてすまなかった。そう怯えるな。何もしない」
「いえ心底から怖がってませんし怯えてません。どちらかというと小馬鹿にしております――いーやーあー」

「お・ま・え・と・い・う・女はぁぁぁ!!」

 いだだだだ!! ほっぺを引っ張るな!!

 文句があるなら、民間人よりサバイバル能力を磨いてからにして下さいよ!!

 ……閑話休題。

 じゃれあいは落ち着いたが何となく互いに寝付けず、ぽつぽつと言葉を交わす。

「星がきれいだな」
「そうですね」
「……」
「……」

 木々の枝の間に見える空。私は腕枕をされたまま、ぼんやり見上げる。
 隣の鯉登少尉は、少し微笑みを浮かべ、何かを思い出しているようだ。

「故郷のことを思い出しておられるのですか?」
「!!」
 うわ! 腕枕したまま起き上がらないで下さいよ!! 頭がゴキッと行くとこだったでしょうが!
 鯉登少尉は汗をぬぐい、
「何故分かった……いや。おまえが頭の良い女だと言うことを忘れていた」
 100%、あなたの感情が読みやすいだけです。

 そして鯉登少尉はまた横になる。そしてマイ腕枕で寝ようとしてた私をグイッと引き寄せ、また自分の腕枕で寝かせる。

 い、いや別にいいですって。
 しかし拒むことを許さぬ雰囲気を感じた。

「……思い出していた。昔、故郷で兄と二人、夜空を見上げたことを」
「そうですか」

 そして鯉登少尉は息を吸い、

「梢。あ、あのな! いつか私と一緒に――」

「音之進様。私は尾形さんが好きです」

 ショックを受けたように鯉登少尉は黙る。
 何でこんな言葉が出たのか。
 私との結婚を本気で考えてくれるほど、真剣だからなのかもしれない。
 ……つか何度も断ったよね? いい加減、学習して下さいな。

 そして私は彼の手を取り、

「でも尾形さんとも他のどなたとも一緒にはなれません。私はもうすぐ消えるんです」

 そう言って笑った。

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