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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第9章 うちの庭が明治の北海道につながっていた件



「ではいってらっしゃいませ。道中ご無事で。お早いお帰りを」

 私は棒読みで言った。ずずーっと自分の茶を飲み、そろそろ司令部に戻ろうかと考えていると。

「何を言っている。おまえも私と一緒に小樽に戻るのだ」

 わたくし、たっぷり一分は沈黙し、

「は?」
「当たり前だ」
 今度は鯉登少尉が真顔だった。そうなの?

「鶴見中尉殿の電報には、梢も伴うようにとのご指示があった」

「ええ! 何で!? いやいい! いいですよ! 旭川にいますから!」

 気楽なバイト生活がー!!

「鶴見中尉殿のご命令だ。嫌なら引きずってでも連れて行くぞ」
「ええー!」

 ちなみに北海道の地理をざっくり横並びにしてしまうと、
『小樽――旭川――網走』ということになる。

 せっかく途中地点まで来たのに、また小樽まで戻るとか!! 網走が……網走が遠のいていく!!

「ま、また旭川に戻って来れますかね?」
「分からない。私も鶴見中尉殿にどんなに怒られるか」

 あかん。鯉登少尉はご自分のことで精一杯だ。

「で、では皆さんで行くんですね。旅なんて久しぶりです」
「…………」
 
 すると、鯉登少尉は立ち上がった。周囲をキョロキョロし、わざわざ廊下に出たり窓の外を確認したりした。

 そして私に顔を近づけ、小声で、

「大人数だと目立つから私とおまえだけで行く」

「は?」
 
 私はきょとんとした。

 旭川には鶴見中尉の息のかかった部下が他にもいる。
 てっきりと彼らと小樽に行くと思ったのに。

「奴らはまだ淀川中佐や他の連中の監視がある」

 鯉登少尉の独断ではなく、これも鶴見中尉の指示のようだ。

「それに鶴見中尉殿は、前々からおまえが旭川で冷たい扱いを受けていないか気にかけておられた。
 実際、おまえは才能を活かす機会を与えられず、今や完全に雑用扱いだ。ここを離れたいだろう?」

「いえいえいえ、冷たい扱いなんてとーんでもない!」

 ……鯉登少尉が不在になれば、確実に私は旭川から姿を消す――そう鶴見中尉に読まれてるな。
 まあそうなんだけど。

 鯉登少尉は気づいてないようだけど、彼が実質的に私の監視係みたいなもんだったからなあ。

「とにかく数日後には出発だ。荷物をまとめておけ」

 鯉登少尉は真剣な顔でそう言ったのだった。

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