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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第8章 第七師団



「尾形さん!!」

 必死に叫んだのが通じたのだろうか。飛行船の上で銃を構えてた尾形さんが、チラッと私の方を見た気がした。

 私は汗を流し、息を切らしながら必死に走る。届かないと知りながら手を伸ばす。

 待って! 私も一緒に、連れて行って!! もう離れるのは嫌!!

 遠すぎて尾形さんの表情は見えない。
 でも彼は目が良い。懸命に走る私が見えただろうか。

「尾形……さん……」

 彼が懐から『何か』を取り出す。そして宙に投げた。
 杉元さんと鯉登少尉は交戦していて、それに気づかない。

 尾形さんが放ったものが、まっすぐに落ちていく。

 そのあたりで、私もついに体力の限界だった。
「!!」
 転んで倒れた私の前に、尾形さんが放った『何か』がまっすぐ落ちてきた。

 布の包みだ。

「…………」

 震える手で伸ばし、包みを拾う。何重にも何重にも大事にくるまれたそれを開くと――私のスマホが出てきた。

「ここはカマボコの板を入れとくとこでしょう……?」


『網走に一緒に行けない』


 そう言われたような気がして、涙がぼろぼろこぼれた。
 
 もう一度飛行船を見上げたが、もう遠くに行ってしまって見えない。
 一人では馬に乗れず、山登りのスキルも無い私に、もはや追いつく方法は無い。
 土方さんたちは? 彼らは私がここにいると知らない。
 飛行船を見て杉元さんたちの失敗を知り、とっくに逃げたはずだ。

 尾形さんの馬鹿。また私を置いて逃げていってしまった。
 これで二度目だ。本当に最低な人だ。

「……私の馬鹿」
 
 でも胸に去来するのは、自分を責める感情ばかり。

 典獄が偽物だと教えなかったら。グズグズせずもっと早く動いていたら。苦手でも何でも馬の乗り方を教わっていたら。

 けどもう遅い。何もかも遅すぎる。

 誰も居ない道端で、私は声を上げて泣いた。

 布にくるまれたスマホを握りしめ、どうしようもない後悔で泣いた。


 …………


 そしてどれだけ経っただろう。

「梢」

 私を呼ぶ声がする。

 泣きはらした顔を上げると、鯉登少尉がいた。
 全身すり傷だらけで髪に枝葉がついている。

 荷物を持った私の姿に、だいたい察しはつくだろうに。

 彼は私に手をさしのべ、優しい笑顔で言った。

「帰ろう」

 
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