【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
そして建物の密集した場所を抜け、土手に上がり、木の橋を通って川を渡る。
その先は森だ。
「…………出られた」
息をぜいぜいと切らして、『やっとここまで来た』という思いで第七師団の建物群を見下ろす。
遠回りになってしまったが、あと少しの辛抱だ。
もう少しで合流地点につく。
「――ん?」
そのとき、近くで騒ぎが聞こえた気がする。でも私は気にせず、また走ろうとして。
「んん?」
突然、私の周囲の地面に影がさす。
雲では無い。何だだろう?
私は立ち止まり、空を見上げた。
そして驚愕に目を見開いた。
「――え? はああ!?」
上空には信じられない光景が広がっていた。
まるで巨大な風船でも浮かべたような乗り物が見える。
飛行船だ。
あー。そういえば気球部隊を作ったとか聞いたことがある。
でも何でこんな騒ぎのさなかに試験飛行をやってるんだろう。
呆気にとられて見上げていると、
「尾形さんっ!? それに鯉登少尉も!?」
度肝を抜かれた。何で彼らが飛行船に乗っているんだ!
小さくてよく見えないが、フードを被っているのは間違いなく尾形さんだ。
どうやら、のっぴきならない状況らしい。
飛行船には他にも、杉元さんと鯉登少尉、あとさっき見た囚人の人もいた。
何、どういうこと? いったい、あの後、何があったの!?
それに杉元さん、血を流してるけど大丈夫なの!?
「尾形さん!!」
彼らは上空にいる。聞こえるはずがない距離だが、つい叫んで走り出す。
恐らく、さっき会った偽看守は杉元さんだったんだろう。
それで逃亡に失敗して、重傷を負ったに違いない。
……もしかしなくとも、私がチクったのが原因では?
いやいやいやいや!! だ、だって彼らが杉元さん一味だって知らなかったし!!
そして考えるうち、心にヒヤリとするものが走る。
私は走りながら飛行船を見上げた。
「待って!!」
走った。必死に走った。でも空を飛ぶ飛行船に追いつけるわけがない。
距離は少しずつ離れていく。
「尾形さん!!」
叫んだ。
彼らはあの飛行船で逃げるつもりなのだ。
むろん、私を拾っていく余裕などあるはずもない。