【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
だが私はハタと真顔になり、
「いえそれならスマホ返して下さいよ。一緒に網走に行くんなら、あなたが持ってる意味ないでしょうが!」
「…………いや網走で返す約束だし」
なぜフードを被るんだ、尾形さん。
「ですからそれは、網走まで会えないって前条件があるからでしょうが! いいから返して下さいよ」
「俺は持ち場に戻る。それじゃあ、後でな」
そう言って尾形さんは私の唇に唇を重ねた。
「いやだからスマホ――」
尾 形 は に げ だ し た !
脱兎のごとく走って行くクソ猫。
「…………。実はスマホが気に入っただけでしょ」
聞く人のいないツッコミを入れる私であった。
でも私もすぐ、身を翻して走った。
「また一緒に旅をするんだし、スマホはそのときに返してもらおう。宿舎に荷物を取りに行かないと!」
私は急いで走り出した。
…………
宿舎の自分の部屋にて、私は荷物をまとめるのに大わらわだった。
「これと、これと……あとこれも……!」
室内は泥棒に入られたかのように乱雑なありさまになってしまった。
本当は鯉登少尉や鶴見中尉に、お詫びの手紙の一つも残したいとこだ。
むろん、そんなことは出来ない。
早く尾形さんに会いたい。土方さんや牛山さんや、皆に会いたい。一緒に旅をしたい。
どうしても心が浮き立つ。
尾形さんと一緒に行ける。
最終的には別れると分かっていても、涙が出るくらい嬉しい。顔が勝手にニヤけてしまう。
そして私は荷物をつめた背嚢(はいのう)を背負い、立ち上がる。
「よし、合流地点に急――」
そのとき、窓の外から銃声が聞こえた。
…………
十分後。
私は荷物を持って、敷地内を走っていた。
だが行く先々で、建物から軍人さんが飛び出してくるので、そのたび隠れることを余儀なくされた。
「さっきの銃声は何だ? 何が起こっている!?」
私こそ知りたい。だが偽典獄絡みなことは間違いない。
皆、警戒心MAXでどこかに走って行く。
私の存在はそこそこ知られている。荷物を持って移動しているのを見られたら厄介だ。
「ええと……こっちだっけ。遠回りになるけど仕方ないか」
私は尾形さんに指示された場所に急いだ。