【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第8章 第七師団
そんなこんなで、再会を果たしたのですが。
何度も繰り返したとおり、尾形さんの状況は切羽詰まっているのである。
「隠れろ!」
突然、尾形さんが私を抱き込み、近くの茂みに入る。
その後、兵隊さんが囚人を連れて司令部の方に歩いて行くのが見えた。
あの半纏(はんてん)着た囚人さん、どこかで見たような……。
尾形さんは彼らの後ろ姿を鋭い目で見、銃を担ぎ直した。
どうやら今度こそ、戻らなければならないようだ。
「梢。おまえはこの敷地内を自由に歩けるんだろう?」
「はい。まあ」
一応、捕まっている身ということになるんだろうが、何も四六時中監視されているワケではない。
鯉登少尉がちょくちょく忍んで来るのがその証拠だ。
単独で逃げたところで、大自然に囲まれた北海道じゃ行くアテがないってのもあるんだろうけど。
尾形さんは私の肩に手を置き、
「いいか。俺はもう行く。俺が指定する場所で待っていろ。後で合流して一緒に逃げる」
「はい!」
勢い良く頷き、
「でも私も一緒に行って、いいんですか? その、尾形さんのお仲間に加わって……」
スキルは身についてきたが、私はほぼ民間人だ。
足手まといとかにならないだろうか。
「は? 今さら何だよ。お互い網走監獄に行くんだ。何の不都合がある」
「そうなんですが――」
「こっちもメンツが増えて雑用が必要だ。それに永倉のじじいも、おまえが生きてるって知って喜んでたぜ」
「永倉さん……? じゃ、土方さんや家永さんもいらっしゃるんですか?」
隠れ家ではおじいさま方にとても気にかけていただいた。
また会えるならこれ以上嬉しいことはない。
……雑用係指定はさておき!
でも何よりも。
「また尾形さんと一緒に行けるんですね……」
ポロッと涙がこぼれる。
そして自分が、どんなに心細い思いで旭川にいたのか痛感した。
鯉登少尉はお兄さんみたいに優しくしてくれた。二人で色んな場所に行って色んな話をするのが楽しかった。
彼がいなければ旭川での生活はもっと孤独で、辛かったと思う。
好意を持っている。感謝している。
でもやっぱり違うのだ。側にいるわけにはいかない。
「ああ。面倒くせぇが、またおまえと一緒だな」
涙をこぼして喜ぶ私を見、尾形さんもほんの少しだけ笑ったのだった。